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ロシア紅茶の謎 (有栖川有栖)

書籍情報

著者 : 有栖川有栖
発行元 : 講談社
新書版発行 : 1994.8
文庫版発行 : 1997.7

エラリー・クイーンのひそみに倣った「国名シリーズ」第一作品集。

収録作品

  1. 動物園の暗号
  2. 屋根裏の散歩者
  3. 赤い稲妻
  4. ルーンの導き
  5. ロシア紅茶の謎
  6. 八角形の罠

こんな人にお薦め

  • 暗号好きなあなた
  • 息抜き気分なあなた
  • ひむらーなあなた

あらすじ

1. 動物園の暗号

阿倍野動物園の猿山で開闢以来の珍事が発生。
飼育係の男性が、頭を鈍器で殴られたうえで猿山の底に落とされて息絶えていたのだ。その男性の手には様々な動物の名前らしき漢字などが書かれたメモが握られていた……。

2. 屋根裏の散歩者

アパートの家主の老人が殺されていた。
それだけであれば何の変哲もない事件だったのだが、被害者が意外な場所に隠していた日記によって、その老人が巷で騒がれている連続女性暴行殺人事件の犯人を知ったために殺されたのではないかという疑惑が浮上する。ところがその日記に書かれた人物達は妙な符丁であらわされていたために、捜査は難航する……。

3. 赤い稲妻

雷雨の中、マンションの7階から金髪のアメリカ人女性モデルが転落死した。その転落の直前、そのマンションの部屋には他の人影があったとの証言が得られるが、その部屋には誰も見当たらず、密室と呼べる状態であった。さらに、その被害者のパトロンの男性が見つかるが、その妻も第一の事件から一時間とおかず、別の場所で踏切事故によって命を落としていたことが判明した……。

4. ルーンの導き

火村英生の同僚の外国人講師が火村に助けを求めてきた。訪問先の友人宅で人が殺されたというのだ。早速現場へ向かった火村だが、その事件の被害者はルーン文字が刻まれた数個の石を握って死んでいたという。果たしてその石が示す意味とは……。

5. ロシア紅茶の謎

表題作。知人達が集うパーティの最中に、新進作詞家がロシア紅茶に混入された青酸カリを飲んだことにより死亡した。しかし毒は被害者が飲んだ紅茶からしか検出されず、そうすると被害者のコップにのみ毒を投入できる者がいない状況となってしまう。犯人はいかにして被害者のコップに毒を投入したのか……。

6.八角形の罠

八角形のホールをもつ「アルカディアホール・オクト」
そのこけら落としに先立つお披露目イベントの推理劇の原案を執筆した有栖川有栖は、その舞台稽古を火村英生とともに観に来ていた。が、どうもその舞台を勤める劇団員達の間には不穏な空気が流れる。そんな中で殺人事件は発生した……。

 

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書評

1. 動物園の暗号

さすが○○ファンの有栖川先生。
いや、これ以上は言いますまい。

典型的なダイイングメッセージものです。趣味の作品という気がしないでもないですが、有栖川先生だけあってきちんとこのようなダイイングメッセージを残す必然性は考慮されているので安心して楽しめました。

2. 屋根裏の散歩者

これも一種のダイイングメッセージ的な感じです。
しかしこの暗号のセンスは……。そのアイデアだけでも笑えるのに、オチまで用意されているのは、さすが関西人の先生らしいところです。

3. 赤い稲妻

こちら短編の割にはなかなか有栖川先生らしい、論理の積み重ねを見せてくれます。短編だと思って単純に犯人を決め付けて推理していたところ、見事にだまされました。

4. ルーンの導き

またまたダイイングメッセージもの。今回は怪しげなルーン文字が刻まれた石がポイントとなっていますが、もともとダイイングメッセージに関してはあまり自分で推理する気にならない私ですが、今回も
「ルーン文字なんか使われたら余計わからん」
と、はじめからあきらめモードでした。が、結末を見て
「そうきたか!」
と思うと同時に
「このメッセージはちょっと無いような……」
とも思って、少し首を傾げてしまいました。

でも、犯人を推理する手がかりをその一点に頼らず、他の要素をさりげなく持ってきているところが、有栖川先生らしくて好感が持てます。

5. ロシア紅茶の謎

第一に謎めいているのは、なぜこんなに泥沼的な人間関係の人々が集まってパーティをするのかな? といったところですが、これはまあ短編ですし、手っ取り早く容疑者を絞り、かつ一所に集めてしまう手法だということで見逃しておきましょうか。

で、トリック。
どうでしょうか? そのトリック自体もちょっと強引過ぎる気がしましたが、それはまあ意外性ということで良しとしても、そのトリックの準備などの段階から推察すると、かなり無理があるような気がするのですが、どうでしょうか。

6.八角形の罠

これは実際に舞台化された有栖川先生の原案をノベライズしたものだということですが、メイントリックはもう一ひねりほしい感じです。しかし、ある ○○○が犯人を追い詰める決め手となってゆく過程は、とても論理的で、かつ、何かあるのではと思わせられているのに驚くことができる、なかなか楽しめるものでした。

それにしても、設定として実際にあるホールの見取り図をそのまま使用されていて、なおかつ特徴的なホールですので、長編で読みたかった……。たとえていうなら5階建て、40室もある由緒正しい古めかしい洋館で、殺人がひとつだけ起こってしまって終わり……というような。ぜいたくですかね。

総括

最近では、本格推理のファンを納得させるのがなかなか難しくなっているであろう、ダイイングメッセージものが3編入っているため、人によっては結構厳しい評価をされているケースがあるようです。

が、私は「短編集」を読む心構えで読めば、本作のような、ど真ん中もあれば、お遊び的な小品もあり、といった構成はなかなか楽しめてよいのではないかと思います。「動物園の暗号」「屋根裏の散歩者」で使用されたようなダイイングメッセージが長編の鍵となるトリックとして使われれば、ちょっと目もあてられないことになってしまうのは明らかですので、このような短編集で発表する側も読む側もリラックスして気軽に楽しむというのも一興ではないかと思うのです。

動物園の暗号でのダイイングメッセージは、有栖川先生もお気に入りのようですし。

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