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絶叫城殺人事件 (有栖川有栖)
書籍情報
著者 : 有栖川有栖
発行元 : 新潮社
単行本発行 : 2001.10
文庫版発行 : 2004.1
黒鳥亭、壷中庵、月宮殿、雪華楼、紅雨荘、絶叫城の6つの館を舞台に臨床犯罪学者・火村英生と作家・有栖川有栖が挑む。「館」をテーマとした火村シリーズ短編集。
収録作品
- 黒鳥亭殺人事件
- 壷中庵殺人事件
- 月宮殿殺人事件
- 雪華楼殺人事件
- 紅雨荘殺人事件
- 絶叫城殺人事件
こんな人にお薦め
- とにかく「館モノ」なあなた
- 奇抜な建物が大好きなあなた
- 幻想的な空気に浸りたいあなた
- やっぱりひむらーなあなた
あらすじ
1. 黒鳥亭殺人事件
火村とアリスが学生時代からの学友、天農に請われて訪問した「黒鳥亭」
ここはかつて以前の所有者であった銀行の支店長が妻を殺害したのち、断崖から身を投げて自殺したという痛ましい事件の舞台となっていた。ところがその後黒鳥亭の所有者となった叔母から相続して、妻を早くに亡くした天農がまだ幼い娘と暮らしている今になって、自殺したはずの支店長が裏庭にある古井戸から発見されたのである。しかもそれは死後わずか一週間ほどしか経過していない変死体であった……。
2. 壺中庵殺人事件
壺中庵と名づけられた地下室で男は首を吊ってぶら下がっていた。
死体の痕跡からは偽装自殺であることは明らかであるにもかかわらず、その部屋には1階に通じる梯子を上った先の跳ね上げ式の扉以外には出入り口が存在せず、しかもその扉には内側から閂がかかっていたらしい。犯人はいったいどのようにしてこの部屋から立ち去ったのか……。
3.月宮殿殺人事件
あるホームレスが、自ら拾い集めたがらくだで築き上げた建物――月宮殿。
以前そこを訪れたアリスが、今日火村と共に通りがかったその時、月宮殿は灰燼と帰し、その主も一酸化炭素中毒で死亡していた。火災の原因は放火で、犯人は日頃からホームレス達に悪事を重ねていた高校生のグループであることも判明した。しかし彼らは月宮殿の中には人がいなかったと主張するも、目撃者であるホームレス仲間は火事の際月宮殿の主はその中にいたと証言している。果たして真相は……。
4.雪華楼殺人事件
雪華楼と名付けられるはずであったその七階建ての細長い建物は、不況のあおりを受け、旅館としての完成を見ることのないまま放置されたいた。
そこではある若い男女が刹那的な愛を育む場所として住みついていた。ある夜、その恋人の片方――男性――が雪華楼の屋上から転落死した。その死体の頭部には自殺したにしては不自然な傷痕も残されていたが、雪の積もる屋上には彼の足跡以外の痕跡以外は発見されなかった。残された女性はひどくショックを受け、錯乱しているとも言える状態であった。二人の愛憎の果てに何が起こったのか……。
5.紅雨荘殺人事件
ある映画のロケ地として有名になった「紅雨荘」の女主人が絞殺された。しかし殺されていた場所はその女主人がもう一軒所有する邸宅であった。実はそちらの邸宅こそが本来の「紅雨荘」であり、女主人は普段はそちらで生活していたとのことだった。
ロケ地の方の「紅雨荘」には被害者の三人の子どもが――全員立派に成人しているというのに――一緒に暮らしていた。そしてその近くの家には被害者の従妹である人形作家、牟礼真広が住んでいた。三人の子どもには鉄壁のアリバイが、しかし真広は警察に対し、奇妙なアリバイを主張する。果たして真相は……。
6.絶叫城殺人事件
ホラー系ゲーム「絶叫城」中の殺人鬼「ナイト・プローラー」の名を名乗る犯人が、あたかもゲームの中の殺人鬼であるかのような犯行を繰り返し、街を恐怖に陥れていた。そんな中、捜査陣をあざ笑うかのように再び起こる犯行。遺留品や、被害者の警察へ通報からも「ナイト・プローラー」の犯行かと思われるのだが、何か不自然さを感じさせるものが……。
書評
1.黒鳥亭殺人事件
推理小説としてはトリックは少々肩透かしを食らわされたような感じです。
しかしアリスたちの友人である天農の娘との掛け合いを通じて火村の不器用だが優しい雰囲気とアリスのお人好しでこれまた優しい雰囲気が良くでていると思うので、ファンにとっては嬉しく、有栖川先生初心者の方にとっては良い導入編になるのではないでしょうか。
それにしてもアリスは、まだ小学校にも上がっていない娘さんと見事にがっぷり四つに組んでます。
2.壺中庵殺人事件
壺中庵で壺を被った首吊り死体。真っ正面からの密室トリック。素直に楽しめました。
現実に行なうのは難しいと思いますが、まあそれは置いときましょう。
それにしても、このような短編ながらきちんと複線が張り巡らせられているのはさすがです。
3.月宮殿殺人事件
浮浪者ががらくたで築きあげた醜くもどこか幻想的な妖麗さを湛えた建物。そしてその塔のブリキでできた尖端は月の光をきらきらと反射していた……などの描写。まさかそこにあんな落とし穴があったとは。それにしても火村先生はよく解ったなあと思います。月宮殿の秘密。広辞苑にも載ってないのに。でも、そのような方向に推理が向かった根拠はきちんと用意されていて無理がありません。
4.雪華楼殺人事件
切ないお話ですねえ。始まったときから、その終点が見えているような刹那的な共同生活。しかしその犯行現場は、どのような狡猾なトリックが使われたのかという不可能状態。と思い悩みながら読んでおりましたが……そう来ましたか。
あり得ねえ……。
しかしその思いにすら有栖川先生は答え――言い訳か?――をご用意なさっていました。トリックに割り切れない思いを抱いた人は、あとがきへ向かえ!
5.紅雨荘殺人事件
こちらもある意味奇抜な犯行でした。トリック自体はそれほど目新しいものではないのですが、自分の無罪を証明するはずの目撃証言を頑なに否定する人物、何となく怪しいのに実に完璧なアリバイを持つ息子たち。動機の部分でちょっと強引さは感じましたが、これは有栖川先生の場合結構あることなので目を瞑ります。
で、謎の解明部分については文句なしですが、やはり複線の張り方がうまいです。有栖川先生らしい叙情的なイントロから始まる紅雨荘の描写があんな風に核心部分に関わってくるとは。
6.絶叫城殺人事件
アイデアとしては面白いのですが、これはできないと思うのです……。
アリスは出版社の経費でのホテル缶詰中に10時間以上もゲームに浸っていてはいけないと思うのです……。
そんなことでは仕事もせずに事件に首をつっこんでばかりのフリールポライター、浅見光○氏よりもやばいです。何せあちらは事件を解決してますから。
総括
(ある種の)館をテーマにした短編集ということで、推理小説としての出来映えよりも、物語としての雰囲気を重視している感のある本だったように思います。
実は有栖川先生の本を拝読したのはこの作品が最初だったのです。
昔からのクリスティファンであった私が国内ミステリにも手を出してみようと何となく手に取った、鯨統一郎先生の「ミステリアス学園」における巻末の「本格度マップ」(名前は違うかも)において、有栖川先生の作品がかなりの本格度であったこと、「日本のエラリークイーン」とも称されていることなどから、たまたま本屋で見つけて手に取ったのがこの本だったのです。
ですから初読の際は正直言って???でした。なぜこの作家がエラリークイーンなんだ? と。雰囲気はよいけど、トリックとしてはちょっと無茶なものが多いじゃないか、と。
しかし、再読したときに思いました。確かに動機も、トリックもちょっと無茶なものが多いけど、そこに探偵(火村先生)が至る過程は見事に論理的思考の積み重ねになっているではないかと。そしてその思考のネタは基本的にきちんと読者にも開示されている。確かにこれは本格推理ではないかと。
ただ、この感想は再読までにほかの有栖川先生の作品を読み漁り、本当の真正面の本格推理といえる作品たちを堪能したからこそ、こういうのもアリだなと思えたのかもしれません。
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