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乱れからくり (泡坂妻夫)

書籍情報

著者 : 泡坂妻夫
発行元 : 東京創元社
文庫版発行 : 1993.9

※ 初版は1977.12に幻影城ノベルスから刊行、その後双葉文庫、角川文庫からも刊行されている。

第31回日本推理作家協会賞受賞作。

奇術師としての顔を持つ泡坂先生らしい、さまざまな歴史あるからくりの世界と本格ミステリの融合。

こんな人にお薦め

  • お茶運び人形など、昔ながらの「からくり」に浪漫を感じるあなた
  • 迷宮にも浪漫を感じるあなた
  • 強い女性に憧れるあなた

あらすじ

以下東京創元社文庫版裏表紙より引用

玩具会社の部長馬割朋浩は降ってきた隕石に当たり命を落としてしまう。

その葬儀も終わらぬうちに彼の幼児が誤って睡眠薬を飲んで死亡する。

さらに死に神に魅入られたように馬割家の人々に連続する不可解な死。

一族の秘められた謎と、ねじ屋敷と呼ばれる同家の庭に造られた巨大迷路に隠された秘密を巡って、男まさりの女流探偵と新米助手の捜査が始まる。

日本推理作家協会賞受賞作。

 

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書評

乱れ飛ぶからくりの幻惑

奇術師としても高名な泡坂先生の本作。
タイトルにある「からくり」に期待してしまうのは当然でしょう。

そしてその期待は裏切られることなく、作中にはからくりの施された玩具、人形、建造物とさまざまなうんちくが披露されます。
もっともすべてが事件に関連しているわけではなく、登場人物の口を借りたからくりの歴史の披露に過ぎない部分もあるのですが、事件の全体に「からくり」が関わってきています。

隕石の直撃というとんでもない事故で命を失った馬割朋浩が死の間際までこだわった「マドージョ」と呼ばれる奇っ怪な人形。

「ねじ屋敷」を建設したひまわり工芸の先代社長である馬割蓬堂が、その敷地内に残した五角形の迷路。
そしてからくり人形に万華鏡……。

そんな、ある意味人間の英知が詰まったからくり達に囲まれた馬割家の人間は、次々と不可解な死を遂げてゆきます。
どう考えても読者の目は「からくり」に向かうことになる構成ですので普通に考えれば、これで読者を騙し通すことは困難であると思われます。

しかし、あたかもマジシャンがこれ見よがしに観客の目を集めながらも彼らを騙し通すかのように、いかにも怪しげなからくりをどんどん読者の目の前にさらしながら――むしろ必要以上に「からくり」を前面に出しながら物語は進んでゆきます。

すなわち「からくり」が事件のポイントになっているにもかかわらず、そのトリック(からくりの仕組み)を看破するだけでは事件の解決を見ない、そのところにこの作品の価値があると思います。

結局のところ「からくり」というのはミステリで言うところの「物理トリック」に他なりません。
なんたってそのままずばり、機械仕掛けなんですから。

で、この作品が発表されてからすでに30年が経つとはいうものの、その当時でさえ物理トリックというものに対する見方はそれほど高いものではなかったのではないでしょうか?
それでもこの作品が「日本推理作家協会賞」を受賞するまでの評価を得たのは、物理トリックたる「からくり」を重要なファクターとしながらも、そのからくりを使うことの必然性こそが事件を解決する真のポイントであるということ、そして、からくりの洪水で読者を押し包むことで、読者の目をからくりそのものに目を向けさせた――からくり自体を読者の目くらましとして機能させたその手腕によるのではないでしょうか。

ただ、やはり30年以上前の作品です。

今の読者ならけっこう早い段階で真犯人や事件に使われたからくりの持つ意味に気付く方も多いように思います。
ですから、上述の内容はあくまでも書かれた時代を考えてのものであり、多少大げさな賞賛であるようにも我ながら思います。
が、現在の作品でもいろんな伏線を張ったりして読者を騙す仕組みは進化しているものの、結局ポイントになるトリックの内容で一発勝負、といった作品も多いことを考えれば、トリック自体をスケープゴートにして読者を騙すというテクニックは、未だ古さを感じさせないものと言えるでしょう。

さて、ミステリ的要素の他にも、この作品には大きな魅力があります。

それは、宇内舞子なるこの物語の探偵です。

「宇内経済研究会」なる怪しげな会社――実は興信所の下請けで社員は宇内ひとり――の社長である彼女は、男っぽい言動と豪快さを持ち、体型も「肥った」という形容詞が使われるくらいのもので、いわゆるかっこいい美人探偵といったイメージではないのです……が。
ボクサーをドロップアウトしてやってきた、失意の新入社員、勝敏夫を颯爽と引っ張ってゆくさまや、元刑事の経歴に恥じない、事件に対して正面から堂々と向かい合う態度は、やはりかっこいいのです。
しかも、肥っていると言っても、ジュモウのビスクドールに似ていると表現されることから、可愛らしくも強い瞳をもった魅力のある表情が想像されます。

というわけで、やっぱりかっこいい美人探偵なんですよね。
魅力的です。

現在は男が弱くなり、女が強くなった時代だと言われます。
でも、30年も前の時代でも、これだけ強くてかっこいい女探偵が誕生していたことを思うと、いつの時代も、男は常に強い女性に対する憧れをこっそりもっているものかも知れない……と思ってみたりもいたします。

なんでこの宇内探偵ものをシリーズ化してくれなかったのか?
泡坂先生がこの2009年逝去されただけに。
もう続きを期待することもできないだけに。

それだけが残念でなりません。


以下、ネタバレありです。未読の方はご注意を


透一ちゃんの死の真相は、ちょっと無理があると思ってみたり。

糖衣錠だからといっても中身は薬だし、そんなにがばがばと……w

ラストの天保銭のどんでん返しは、ありきたりだとは思いますが、さりげなくきちんと理由付けがされているあたり、好印象でした。

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