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長く冷たい眠り (北川歩実)

書籍情報

著者 : 北川歩実
発行元 : 徳間書店
単行本発行 : 2007.6
文庫版発行 : 2009.12 徳間文庫

「冷凍睡眠の実現」をキーワードに暴走する人間の狂気を描いた短編集。

北川先生らしい、サイコミステリーとサイエンスミステリーの融合。

収録作品

  • 氷の籠
  • 利口な猿
  • 闇の中へ
  • 追う女
  • 素顔に戻る朝
  • 凍りついた記憶
  • 長く冷たい眠り

こんな人にお薦め

  • ちょっと狂気な雰囲気が好きなあなた
  • サイエンスミステリ好きなあなた
  • 短編集は各話独立している方が好みなあなた

あらすじ

文庫版裏表紙より引用

突然かかってきた一本の電話。

亡くなった兄・直道が生前入信していた新興宗教について聞きたいという。
脳腫瘍で先が長くないと悟った彼は宗教に救いを求めたのだ。
死の数日前、兄は僕に教団が冷凍睡眠の研究を進めていたことを明かしたが……(表題作)。

人は永遠の生命を得られるのか。気鋭が描くサイエンスミステリー集。

 

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書評

わたしがわかってないだけ?

本作は「冷凍睡眠」をテーマとした短編集です。

冷凍睡眠とは字のごとく、人間の体を冷凍状態において眠らせ、将来において目覚めさせるという、昔からSFなどでもよく扱われてきたテーマです。

ただし、本作はSFというわけではなく、この現代において冷凍睡眠を研究し、非合法ながらも科学的な障害を乗り越え、それを実行に移そうとしているという集団が存在している……という話を背景してに起こった、さまざまな事件を扱っている物語です。

「……という話」としたのは理由がありまして、この冷凍睡眠を実行する集団が実在しているものかどうかが、すべての物語を通してはっきりしないからなのです。

一種の都市伝説レベルと言えばわかりやすいでしょうか?
しかし、ただのうわさ話ではなく、実際に冷凍睡眠を持ちかける集団自体は存在するようですが、その集団が本気で冷凍睡眠を実行しようとしているのか、それともいわゆる詐欺的行為なのかがはっきりしないのです。

それでも、重病で余命幾ばくもない人たちが、将来の医療技術の進歩に期待して、その怪しげな話に乗っかるのはわからなくもありません。

そして、普通では考えられない「冷凍睡眠ありき」の事件が起こっていく……というわけです。

全体的にサイエンスホラー的な雰囲気が漂っています。
殺人というものを扱うミステリに狂気は切り離せないものですが、この短編集は冷凍睡眠という人の命の価値を変えかねない舞台装置が、ありきたりの人間が隠し持つ狂気を、実にうまく浮き彫りにしています。

そして、物語によってこの「冷凍睡眠」の果たす役割も大きく異なっており、冷凍睡眠自体は動機の核心にはあるものの、事件の手口自体にはあまり直結していない物語もあれば、冷凍睡眠自体が犯行計画の過程に含まれているような犯罪を扱う物語もあり、ミステリとしても正当な本格推理とSF的味付けがうまく組み合わさっており、独特なものとして楽しめます。

SF的な味付けの現代ミステリといえば、チョーモンインシリーズなどがある西澤保彦先生を思い起こさせますが、それとはまた違って、冷凍睡眠の実在自体がはっきりしていない中での事件であり、実際、物語の中でも切羽詰まっている人達以外にはとても信じられない眉唾的な代物だと扱われているところが特徴的で、そこが本作がサイエンスだけではなくホラー的な色彩を併せ持つに至ったポイントなのだと思います。

さらに、ミステリとしての質も、徐々に謎が明かされてきたと見せかけての、ラストのどんでん返しが短編らしい小気味よさでなかなか。

ちなみにわたしのお気に入りは「闇の中へ」
余命幾ばくもない常識的な少年と、ウマい話に「乗らない」という選択肢を持たないバカ親父のハートフル(嘘)ストーリーです。
ウマい話に騙されて作ってしまった借金のために音信不通状態の父親が、重病の息子を助けるためにやってきた……が、今度は怪しげな冷凍睡眠ばなしに乗っかってしまったようで……。
と、非常にクレイジーな親父さんなのですが、なんと……あとは見てのお楽しみです。

というわけで、非常に楽しめた本作。

ながらも、どうしてもケチをつけてしまうのがワタクシの書評の悪いところです。

この短編集を普通に読み進めていくと、なんだか物語ごとの道具立て、設定が妙に似通っていることに気付くはずです。

例えば登場人物。
名前は作品ごとに違うものの、妙に関連がありそうな人物描写が多いのです。
ネタバレになる部分もあるので、誰と誰とは書きませんが……例えば新興宗教の教団を抜けてきた女性とか……。
明らかに別人なのに、何か他の物語に出てきた人を彷彿とさせる、というような人物設定がやたら多いのです。

ただ、これは設定が似ていることにケチをつけているのではありません。

というのも、上にも書いたように、この短編集の最大の謎は結局「冷凍睡眠」を実行しようとしている集団の謎、なのです。
物語によっては、結構まともそうな医療関係者が患者を救うために行っている研究のようだったり、思いっきりカルトっぽい新興宗教の研究だったり、明らかな詐欺グループっぽい感じだったり……といった感じ。

そこに持ってきて、妙に関連性がありそうな、物語間の登場人物の描写。

そりゃ最後にナニカ来る!! って思っちゃうでしょ?

もうワタクシなんて、最後の方までこの本は「連作」短編集に違いない、と思って読んでいましたから。
狙ったものだと思うのですが、自分的には細かい謎が解き明かされて、さぁこれからメインの謎解きだ、というところで終わった感じで、とっても肩透かしでした。

まあ、最終話に来る頃には、さすがにもうここからは無理だろうな……とは思っていましたが……。

各話ともとても面白かっただけに、そこだけが! そこだけが、ヒジョーに残念でした。

……もしかして、わたし、ナニカ大事な伏線回収見落としてます?

 

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