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天使の歌声 (北川歩実)
書籍情報
著者 : 北川歩実
発行元 : 東京創元社
文庫版発行 : 2007.7
探偵・嶺原克哉が六つの事件の謎を解く短編集。
事件はどれも「親子」というテーマに沿ったものになっている。
収録作品
- 警告
- 白髪の罠
- 絆の向こう側
- 父親の気持ち
- 隠れた構図
- 天使の歌声
こんな人にお薦め
- 北川先生のファンなあなた(ちょい控えめ)
あらすじ
以下、文庫版裏表紙より引用
-
まだ見ぬ父親に会うため秋庭邸を訪れた一登は、そこで言語能力を持たない弟に出会う。
彼は言葉を話せない代わりに、聞くものの心を癒す“天使の歌声”を発することができた。
その弟をめぐってある悲劇が起きる。
そして六年後、一通の手紙によって一登はふたたび秋庭邸を訪れた。探偵・嶺原克哉が出合った六つの難事件。
多重どんでん返しが魅力の連作集を文庫オリジナルで贈る。
書評
空回り?
Wikipediaには
最先端の科学・医学知識と二重三重のどんでん返しを織り込んだサスペンスフルなストーリー展開が特徴。
と書かれている、北川歩実先生ですが。
こんなものなのでしょうか?
科学知識云々は、作品によってその辺を織り込むかどうかは自由だと思いますので、別にいいのですが、どんでん返しについては……あるのですが、無理にどんでん返しを詰め込んでいる感じで、かえってごちゃごちゃしてしまって、ラストでしっかり収まったような感じがしません。
また、全体的に印象に残らない感じでした。
舞台設定、事件自体も妙に現実的な地味な事件が多く、インパクトに乏しいです。
舞台設定的に印象に残ったのは、唯一表題作である「天使の歌声」くらいでしょうか。
実はすべての事件に「親子」という共通テーマがあったことすら、この書評を書くために検証しているときに気付いたくらい、それぞれの物語を漫然と読んでしまいました。
そして、印象が薄かったのはキャラクターに関しても同じです。
探偵の嶺原も地味すぎです。
映像が全く脳裏に浮かびません。
科学誌の企画・編集の仕事からいきなり探偵に転身したという、楽しそうな設定があるのに、それを活かすような仕掛けがほぼ皆無なのはもったいないところです。
で、探偵が地味なのに、個性あるサブキャラクターらしきものもいないので、もうどうしようもなく地味です。
そして、全体的に地味であるのに、読後の後味の悪さだけは残ってしまいます。
「親子」というテーマでありながら、その親子感情の汚い部分ばかりが描かれていたような印象です。
それも、普通の人間が普通に持つ、汚い部分がクローズアップされている感じで、事件のラストももう一つ救いがないような感じなので、より一層読後感がよろしくありません。
なんだか批判ばかりになってしまいました。
しかし、世間の北川先生の評判を見るにつけ、とてもこんなものではないはず! と思ってしまうのです。
おそらく長編向きの作家さんのような気がします。
色々詰め込もうとしてかえってすべてが薄っぺらくなってしまったような印象を受けるからです。
それが、上で述べたような印象の薄さに繋がったのでしょう。
骨髄移植の医療技術に絡んだ脅迫を扱った「警告」
腎臓透析を受ける子どもに臓器移植を受けさせるために、血の繋がった兄を捜すことから意外な結末に到達する「絆の向こう側」
しゃべることはできないが「天使の歌声」を持つ弟をめぐる肉親の心情が語られる「天使の歌声」
あらためて各話のテーマを眺めると、なかなか魅力的なテーマが揃っているのです。
これらがもう少しゆったりとした分量で、綿密に描かれていたならと思うと、残念です。
ミステリとしても、実際は王道的な細かい手がかりを組み上げて行きつつ、探偵の意外な発想が絡んで解決へ繋がるというタイプの物で、決して質が低いわけではなく、ただただ雑然としていて驚きどころをスルーしてしまう感じなのです。
もったいないなぁ。
そんな感じです
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