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占い師はお昼寝中 (倉知淳)

書籍情報

著者 : 倉知淳
発行元 : 東京創元社
単行本発行 : 1996.6
文庫版発行 : 2000.7

ぐうたら占い師「辰寅叔父さん」と女子大生の「美衣子」のコンビが活躍する、安楽椅子探偵スタイルの連作短編集。

収録作品

  1. 三度狐
  2. 水溶霊
  3. 写りたがりの幽霊
  4. ゆきだるまロンド
  5. 占い師は外出中
  6. 壁抜け大入道

こんな人にお薦め

  • 気軽な「日常の謎」系作品が読みたいあなた
  • 大事なのは謎解きよりも問題を解決することだっ! というあなた

あらすじ

以下 文庫版裏表紙より引用

渋谷のおんぼろビルにある「霊感占い所」には、今日も怪現象に頭を悩ますお客さんがやって来る。
そんな彼らの相談に応えて占い師が口にするのは、奇妙な霊や妖怪の名前ばかり。それらは全部インチキだが、しかし彼の「ご託宣」はいつも見事に怪異の裏に隠された真実を突く。

始終寝ている占い師・辰寅叔父の、心優しき安楽椅子探偵連作集。

 

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書評

謎解きよりも、問題解決方法の妙を楽しみましょう

猫丸先輩シリーズで人気の倉知先生の連作短編集です。
どうしても猫丸先輩シリーズと比べてしまいますが……。
正直初めの方は、この本、別に猫丸先輩シリーズとして書かれてもいいんじゃないの? と感じていましたが……。

主人公で探偵役の「辰寅叔父」は、どことなく猫丸先輩を彷彿とさせます。
まあ、本文中で辰寅叔父を形容して「年とった駄猫」との表現が多用されるからかもしれませんが、猫丸先輩が年の割に俊敏で、好奇心旺盛な猫っぽいイメージであるのと裏腹に、辰寅叔父はもはや老境を迎えてふてぶてしく寝続ける、まさに「駄猫」

そんな辰寅叔父を事件の前に引っ張り出すのが、上京してきた姪っ子の美衣子です。彼女は女子大生ながら、辰寅叔父の占い所にかなり入り浸っているようで、ついには辰寅叔父の代わりに怪しげな占いを披露するところまでいってしまいます。

将来が心配です。

さて、この本はそんな二人がいる占い所に、様々な怪奇現象に悩む人々が訪れ、辰寅叔父がその謎を解決する、というスタイルが基本となっています。
が、その謎解き自体は、まず結論が意外性には富んでいるものの「ちょっと、それはないのでは?」と思ってしまうものが多く、またその結論に至る推理の過程も、倉知先生らしい日常の些細な情景から手がかりを掴むところは素晴らしいものの、その論理展開は一足飛びで、とても唯一の正解にたどり着く道筋とは思えなかったりします。

ですから、それだけで終わっていれば、実に凡庸な作品と評価せざるを得なかったのですが、ひとつ非常に面白い点が。

普通の推理小説なら、謎解きそのものがクライマックスであるのが普通だと思うのですが、この作品の場合は謎解きの前に、お客さんに対して辰寅叔父が占い師として、その場しのぎの出任せとしか思えない「ご託宣」を下して、お客さんを追い返して(?)しまいます。

でも、そのご託宣こそ、事態を丸く収める重要なファクターになっているのです。
読者は、謎解きそのものよりも「この謎があって、そういうご託宣を下したのか~」という意味で納得させられてしまいます。
この「事態を丸く収める」という点が、ありそうでなかなか無い探偵のスタイルだと言えるでしょう。
ここに、あえて猫丸先輩シリーズと別シリーズでこれらの謎を扱った意味と、この作品独特の魅力があると思います。

まあ、謎解き自体に過度の期待はしない方がよいと思いますが、軽い「日常の謎」系が好きな人には一読の価値はあると思います。

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