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日曜の夜は出たくない (倉知淳)

書籍情報

著者 : 倉知淳
発行元 : 東京創元社
単行本発行 : 1994.1
文庫版発行 : 1998.1

倉知先生の実質的なデビュー作。

実際には「五十円玉二十枚の謎」(東京創元社)で若竹賞を受賞した短編(解決編)が初お目見えとなるようですが、 「佐々木淳」名義であり、競作集の一般公募枠として掲載されたものであることから、一般的には本作がプロデビュー作だと見なされているようです。

また、本作は倉知先生のメインシリーズでもある「猫丸先輩」シリーズの第1作でもあります。小柄で猫のような風貌で、好奇心旺盛な猫丸先輩が様々な謎を解決します。

収録作品

  1. 空中散歩者の最期
  2. 約束
  3. 海に棲む河童
  4. 一六三人の目撃者
  5. 寄生虫館の殺人
  6. 生首幽霊
  7. 日曜の夜は出たくない
  • 誰にも解析できないであろうメッセージ
  • 蛇足-あるいは真夜中の電話

こんな人にお薦め

  • 殺人事件ものをライト感覚で読みたいあなた
  • 安楽探偵もの(っぽいもの)が好きなあなた
  • 飄々とした探偵がお好みのあなた

あらすじ

1. 空中散歩者の最後
ある朝、住宅街の中の路上で発見された死体。
はじめはそばに立つマンションから転落したものと思われたが、検死の結果判明したのは「最低でもそのマンションの倍ほどの高さから落ちたことは間違いない」とのこと。しかもその死体のそばには、寄り添うように一匹の烏の死体が……。

2. 約束
淋しさを抱える小学生の麻由は、夕暮れの公園で一人の「おじちゃん」と出会う。
自分と同じような淋しさを感じた麻由はそれから毎日その公園でその「おじちゃん」と語り合う。
しかしあるとき「おじちゃん」はある事実を麻由に告げ、別れの時がきたことを伝える。麻由はもう一日だけ会って、以前見せてくれた手品をもう一度見せてもらうように約束したが、次の日「おじちゃん」がその公園で凍死していたことを知る……。

3. 海に棲む河童
昔々、初めて海をみた二人の青年が嵐に遭い、遭難した果てにたどり着いた小島で出会ったのは、海から出てきた大きな化け物だった。
二人で相撲を取って負けた方を殺す。そんな条件に、村一番の力自慢だった青年の一人、太吉はわざと負けてみせる。かくして無事助かったもう一人の青年、茂平だったが、その後海岸に流れ着いた太吉の遺体は、腹を割かれ、足をちぎられ、尻には枯れ草が詰め込まれていた……。
今、同じように遭難してしまったにわか船頭の猫丸先輩が、乗客の二人の青年相手にこの昔話の謎を解明する。

4. 一六三人の目撃者
163人の観客に見守られた舞台の上で、俳優が毒殺された。役者達とスタッフが罪のなすり合いをする中登場したのは、なぜかちょい役で芝居に出演していた猫丸先輩だった。

5. 寄生虫館の殺人
閑散とした寄生虫館で、あるフリーライターが出会ったのは、熱心に寄生虫の標本を観察する猫丸先輩。その二人が三階に上がったときに目にしたのは一階にいたはずの受付嬢の変わり果てた姿だった。エレベーターは点検中。唯一の階段は猫丸先輩達の視界に入っていたはず。被害者はどうやって三階へ行き、誰に殺されたのか?

6. 生首幽霊
NHKの集金人、八郎が、仕事中に灰皿をぶつけられた復讐に向かったアパートの部屋には、灰皿をぶつけた女性の生首が。
八郎は、彼女の部屋に投げ込むつもりで準備した、彼女が嫌いだと言っていた蛇の作り物を持ったまま逃走したが……。次の日からバラバラにされた遺体のパーツがそれぞれ別の場所で発見される。そしてついに八郎が見た頭部も川沿いで埋められていたのが発見された。
飲み屋で飲み仲間に相談する八郎の前に、猫丸先輩が現れる。

7. 日曜の夜は出たくない
毎週日曜日、デートのあとにアパートの前まで送ってくれる彼は、殺人犯?
身近に起こる通り魔事件と、妙な嘘をつく彼との間の奇妙な符号。

 

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書評

事件色が濃いのに日常の謎? 猫丸先輩シリーズの幕開け

今回の再読前に、猫丸先輩シリーズの短編集のすべてを読んでいた私は、なんとなく「猫丸先輩=日常の謎」的な感覚を持っていました。

ところが今回、倉知先生のデビュー作でもあるこの作品を読み返してみますと、意外と普通の殺人事件の推理ものがほとんどを占めているのですね。のちのシリーズ作品は「日常の謎」的色合いがかなり濃いですので、ちょっと特異かもしれません。

デビュー作だし、推理小説としては無難な殺人事件ものを揃えられたのでしょうか?

ただ、面白いのは、それでも読んでいる気分としては「日常の謎」系を読んでいる気分なのです。探偵が間接的に得た情報から犯人を推理する「安楽椅子 探偵」スタイルの作品はともかく、猫丸先輩自身が現場に居合わせた「一六三人の目撃者」「寄生虫館の殺人」においても、なんだか雰囲気は「日常の謎」なの です。

要因のひとつは猫丸先輩のキャラクターによるものでしょう。
どんな場面でも飄々としていて――好奇心旺盛のくせに――どこか投げやりなその態度が、なんだか大変な事件の渦中にあるとは思えない印象を読者に与えるのかもしれません。
また、一部を除き、推理自体もたいした物証もなく、言ってしまえば、猫丸先輩の憶測だけでオチが付いてしまうスタイルも、ライトな感覚を与える一因となっているように感じます。そのあたりは西澤保彦先生の「匠千暁」シリーズと似た造りのような。

「日常の謎」系の作品によくある特徴は、通常の大きな事件を扱う作品に比べて、大上段に構えて提示された手がかりや証拠というものが少ないことだと思います。
結果、一見なんでもない些細な風景から手がかりを掴む必要があるわけで、そこが醍醐味と言えるのですが、この作品も扱う事件は殺人事件がほとんどであるにも関わらず、推理の手法が「日常の謎」のそれと共通しています。あくまでも、一般人でも事件の現場にさえいれば手に入れられる程度の情報から、推理を組み立てているのですね。

すなわち、殺人事件であれ何であれ、事件を解決する流れが「日常の謎」系の作品と共通しているのです。
この作品以後、猫丸先輩シリーズは明白な「日常の謎」系になっていきますが、その流れはこの作品で既に示されていた自然なものだと感じます。それに、猫丸先輩には「身の回りに起こる様々なこと」に好奇心たっぷりに首を突っ込む姿がよく似合いますから。

ちなみに、ラストに加えられた二つの小さなお話は……私はその二つ目のタイトルの通り「蛇足」であったと思います。
推理作家の短編集デビューは意外と少ないのが現状です。やはりインパクトの面からなどの理由があるのでしょうか?
この作品がデビュー作になる倉知先生が、何とか無理矢理ただの「短編集」ではなくある種の長編とも言える「連作短編集」に持って行こうとした感じがして、 ちょっと無理を感じてしまったのです。

そんなわけで、私もちょっと蛇足を。

この作品は東京創元社からの刊行ですが「猫丸先輩の推測」「猫丸先輩の空論」の講談社版の表紙絵に描かれている猫丸先輩のイラストって、ホントイメージぴったりです!
外見はもちろん、その猫っぽいイタズラっぽいところ、わがままそうなところ、それでいて不敵そうなところまで完璧です。
東京創元社はもちろん大好きな出版社ですが、このシリーズに関しては今後も講談社からたくさん発行していただきたいところです。

まさに蛇足でした。

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