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掌の中の小鳥 (加納朋子)

書籍情報

著者 : 加納朋子
発行元 : 東京創元社
単行本発行 : 1995.7
文庫版発行 : 2001.2

二人の男女の出会いと徐々に深まってゆく心の交流を、女性バーテンダーのいる小粋なショットバー「エッグ・スタンド」を舞台にして語る、連作短編集。ミステリとしては、いわゆる「日常の謎」系統の作品。

掲載作品

  1. 掌の中の小鳥
  2. 桜月夜
  3. 自転車泥棒
  4. できない相談
  5. エッグスタンド

こんな人にお薦め

  • 「日常の謎」系統が好きなあなた
  • 心を温めたいあなた
  • ちょっとしたラブストーリーを欲するあなた

あらすじ

以下 文庫版裏表紙より引用

ここ“エッグ・スタンド”はカクテルリストの充実した小粋な店。

謎めいた話を聞かせてくれる若いカップル、すっかりお見通しといった風の紳士、今宵も常連 の顔が並んでいます。狂言誘拐を企んだ昔話やマンションの一室が消えてしまう奇談に興味はおありでしょうか?

ミステリがお好きなあなたには、満足していた だけること請け合い。――お席はこちらです。ごゆっくりどうぞ。

 

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書評

二人の男女の心が解きほぐされてゆく過程を繊細に描く逸品

* ネタバレ防止のため、登場人物の名前を一部書かないようにしています

本作は上で述べたように連作短編集です。
人にはクールだと言われるが、自分の中にある人間としての欠陥をぼんやりと感じながら生きる圭介。
自分の価値観に従ってまっすぐに生きる紗英。
そんな二人の心の動きが実に丁寧に書かれています。

それぞれに魅力的なキャラクターではあるものの、そんなに際だった「設定」のない、意外と普通の若者である二人の心。そのような主題を書くためにはかなり繊細な描写が必要となるわけですが、その点加納先生の描写はさすが女性作家と思わせる繊細さ及び美しさにあふれています。

また、連作短編集というスタイルをとっているわけですが、物語の構成がシンプルでとてもナチュラルな流れとなっています。ミステリ系の連作短編集では、後半で今まで見えていなかったつながりが見えてくる、といった、その構成そのものがトリックのひとつとなっているようなものが多いのですが、この作品に関しては、あくまでも自然な物語としてのつながりになっています。

まず冒頭の「掌の中の小鳥」では二人の心の底にあるものをのぞかせるようなエピソードを通じて、人物の印象を際だたせるとともに、ささいな、でも必然とも思われるきっかけで二人が近づいてゆく過程が書かれています。

そして、続く「桜月夜」ではエッグスタンドの女性バーテンダーが意外な形で物語に関わってくるわけですが、これは結構珍しいですね。
このようなスタイルの作品では、主人公が通う店の店長というのは、魅力的に描かれてはいても、あくまでも物語の輪の外に立っていることが多いように思うのです。

ここまでの流れで舞台設定が揃ったところで「自転車泥棒」
気弱な大学生と女子高生のエピソードですが、この話では圭介の視点から、これでもかとばかりに紗英の魅力が語られています。紗英が魅力的に描かれているのはもちろんですが、圭介の紗英を見る見方が本当に成長途上の青年の純真さが現れていて、とても秀逸です。

そして次の「できない相談」では逆に紗英の視点で、彼女の子どもの頃の男友達と、その彼に紹介された謎めいた、妊娠している女性のエピソードが語られます。
このエピソード自体で紗英が大きく成長して……というわけではないのですが、子どもの頃の彼女と今の大人の彼女の間の揺らめきが感じられ「大人になる」という誰でも経験するステップが抽象的に、印象的に語られています。

そうしてたどり着いた締めの作品が「エッグ・スタンド」です。
紗英を一心に見つめながらも、なにか屈折したものを心に持ち続ける圭介の心の解放の物語です。
ここでエッグスタンドの女性バーテンダーが大きな役割を果たすのですが、彼女が物語に積極的に絡んできていた効果がここで発揮されます。彼女の物語の中で語られるバックボーンがあるからこそ、彼女の言葉は読者の心にまで届きます。

圭介はここに至るまでにいくつもの「謎」を解き明かしてきました。このエピソードでも彼は見事に謎を解き明かしていきます。でもそんな彼に対して、女性バーテンダーは「一番肝心なことをわかっていない」とばっさり切り捨てます。
そんな彼女の指摘に困惑しながらも、圭介はついに自分の心を論理や理屈というフィルターを通さずに、まっすぐに見つめることを覚えます。
そして、ラストはあくまでもまっすぐな紗英の想いと、それをまっすぐに受け止めて、こちらもまっすぐに紗英を見つめる圭介の想いが描かれる、ささやかで、とても綺麗なエンディングになっています。

この作品は一応ミステリに属する作品で、各話にはそれぞれに視点の違う謎がちりばめられており、なおかつ各話が共通してひとつの物語を紡ぎ出すスタイルなので、たしかに連作短編集となるわけですが、もはや「短編集」と呼んで良いものか迷ってしまいます。

ミステリ的要素を主眼に置けば、確かに連作短編集なのですが、この作品はミステリ的要素が二人の男女の物語のスパイスとして使われているに過ぎないような気がしてしまうくらい全体としてひとつの美しい物語になっているからです。
もっとも、謎解きの方も、多少無理のある部分はあるにせよ、通常の推理小説以上の品質はあるのですが。

読むべしですよ?

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