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名探偵はもういない (霧舎巧)
書籍情報
著者 : 霧舎巧
発行元 : 原書房
単行本発行 : 2002.2
発行元 : 講談社
新書版発行 : 2006.4
原形はデビュー作の「ドッペルゲンガー宮」よりも先に書かれていたが、「ドッペルゲンガー宮」がメフィスト賞を受賞したために、鮎川哲也賞応募のため書き直された本作はしばらく出版されることなく、講談社預かりとなっていた。
その後「霧舎学園」シリーズ(の原案?)と交換という形で原書房よりハードカバーとして発売され、新書版は再び講談社より発売されるという、紆余曲折を経た作品である。
「開かずの扉研究会シリーズ」の外伝的な位置づけであり、更に本作の続編として「名探偵はどこにいる」が原書房から単行本として発売されている。新書版はまた講談社からなのか?
こんな人にお薦め
- 霧舎ワールドが好きなあなた
- 「意外なあの人が登場」が大好きなあなた
- 伏線を見破るのが好きなあなた
- 「読者への挑戦状」と聞くと黙っていられないあなた
あらすじ
以下 新書版裏表紙より引用
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もうすぐ小学4年生の敬二少年は義兄の木岬研吾と共にドライブ旅行に出かけるが、雪崩に道路をふさがれ近くのペンションに泊まることに。その雪の山荘で起きる連続怪死事件の謎を「名探偵」が解き明かす、本格推理の決定版。真相への手がかりはすべて提示される「読者への挑戦状」付き。あなたは犯人に到達できる?
書評
ストーリー全体に張り巡らされた伏線
反社会的な犯罪学者「木岬研吾」(きみさき けんご)とそんな彼に心酔して「犯罪者になることが夢」という敬二少年の二人がいわゆる「雪の山荘」に向かうところから始まる物語。
なんだか思わせぶりなタイトルだったところに、あまり探偵らしくない(けど、とても「探偵役」ぽくもある)二人の登場でしたので、何か物語自体に仕掛けはあるよな、と感じずにはいられませんでした。
ところが木岬氏は、若きペンションオーナーである「鈴影さゆみ」にあっけなく惚れ込んでしまい、なんだか普通の善良な人へとあっさり変貌してしまいます。しかも殺人事件が起こるや、名探偵になろうと決意してしまい、ちょっと肩透かしだったのです……が、ここからがどんでん返しの始まりです。
「あの」人の正体。
本格を愛する霧舎先生らしいなぁ、とにやりとしてしまいましたが。
実は私はこちらより「第二」の事件こそ衝撃でした。
素直に読めばあまりに常軌を逸した展開に、「そんなばかな、そんなばかな……」と最後の最後まで変に深読みをさせられてしまい、見事にやられてしまいました。
とは言え、事件の謎自体は大トリックの一発勝負ではなく、いろんな出来事を論理的に積み重ねてゆく、私の好きなパターンで、素直に楽しめました。もちろん霧舎先生ですからそこには伏線がてんこ盛りです。
また、あまり細かい伏線が多すぎても、かえって覚えきれないということがありますが、本作に関しては、事件の本筋自体は意外とすっきりしています。細かい伏線の多くは「物語自体の謎」に関するものが多いように思います。もちろん、どれが事件の伏線で、どれがそれ以外の伏線なのかは、最後まで読まないと解らないのですけどね~。
それにしても、本作は終わりを実に綺麗にまとめています。
事件そのものが終わっても人の心に残ってしまうであろう「わだかまり」を丁寧に、そして優しく消してゆきます。だからこそ、彼らの未来を見てみたいという気持ちにさせられます。
というわけで、私はまだ未読ですが、続編の「名探偵はどこにいる」はこの物語から~~年後を描いたものらしいです。更に「開かずの扉研究会」シリーズとのつながりは濃くなって行くのでしょうか?
このようなシリーズ間の意外なつながりも、霧舎ワールドの魅力ですので、今後の展開が楽しみです。
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