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『クロック城』殺人事件 (北山猛邦)

書籍情報

著者 : 北山猛邦
発行元 : 講談社
新書版発行 : 2002.3
文庫版発行 : 2007.10

北山先生のデビュー作にして、第24回メフィスト賞受賞作。

この作品ののち『瑠璃城』殺人事件、『アリス・ミラー城』殺人事件、『ギロチン城』殺人事件、『石球城』殺人事件と続く「城シリーズ」の第一作。ただし舞台設定はまったく異なる。

トリックの図解が途中に挿入されており、一目見てしまっただけでもきっちり理解できてしまうので、パラパラめくってはいけない。(新書版では、謎解き部分が袋とじになっているらしい)
文庫版解説は、有栖川有栖先生。

こんな人にお薦め

  • 古き良き物理トリック万歳なあなた
  • 曖昧な世界を甘受できるあなた
  • 幻想と科学が交錯した世界観が好きなあなた

あらすじ

以下、文庫版裏表紙より引用

終焉をむかえつつある人類の世界。探偵・南深騎(みなみ みき)と菜美の下に、黒鴣瑠香(くろう るか)と名乗る美少女が現れた。

眠り続ける美女。蠢く人面蒼。3つの時を刻む巨大な時計。謎が漂うクロック城に二人を誘う瑠香。そこに大きな鐘が鳴り響いたとき、首なし遺体が次々と現れた。

驚愕のトリックが待つ、本格ミステリ。

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書評

「あの」国民的大泥棒を思い起こす

終末を迎えつつある世界。
ゲシュタルトの欠片と言われる幻。
幻を射貫く能力を持つ探偵。
世界の終末の原因を探り、取り除こうとする二つの組織「SEEM」と「十一人委員会」
日本に移築されてきた古城と、そこを闊歩するスキップマンなる幽霊。
壁を埋め尽くす人面蒼。

なんだか完全にファンタジーです……が

山奥に建つ、その古城――クロック城――の外壁には3つの大時計が。その時計はそれぞれ10分ずつずれて「過去」「現在」「未来」を顕し、並んでいます。
そこで起こる殺人事件は人目に触れず行き来することは不可能なはずの別々の場所で起こった連続殺人。
しかも首なし。
さらにその首は眠れる美女の枕元に現れる……という実にガチガチ本格作品の様相です。

すなわち、一種ファンタジー的な世界観のなかで、現実的な解決を求められる本格ミステリを書かれているわけです。
このようなSFスタイルを取り入れるミステリは、巻末であり須川先生が言われるように、取り立てて新しいものではないでしょう。
例えば超能力の存在を前提にした、西澤保彦先生の「チョーモンイン」シリーズとか。

しかし、ちょっと変わっているのが、この作品は、その設定をミステリの材料にしていない、というところなのです。すなわち「終末世界」「SF的な組織の暗躍」「ゲシュタルトの欠片(幽霊みたいなもの)」「眠り続ける美女」など、コテコテの設定で世界を作り上げている割には、それがメインの謎解きにはあまり関わってこないのです。

特に「幽霊」の存在が前提となっているのなら、普通は「幽霊ならこんな犯罪が可能かも?」という選択肢も推理の中に入ってきそうなものですが、その辺は主人公によってあっさり切り捨てられています。実にちょっと古典的な本格作品テイストで謎解きは進んでゆきます。
あえていってしまえば、この「ミステリ」を書くためには、ここまで現実離れな舞台設定にする必要はなかったでしょう。要は、ミステリに必要であるかどうかではなく、物語として必要な要素として北山先生が選んだ世界観なのでしょう。

その世界の描写は、オカルティックでありながら、一応科学的な説明をつけることで、読者に厚みを感じさせ、さらに軽いハードボイルドもの的な表現を、ちょっとメランコリックな詩的なヴェールでつつむことで、ともすれば単に殺伐とした世界に映るはずの世界を一種幻想的なものに見せています。

しかし、描写はよいのですが、SEEMやら十二人委員会などの組織の設定が、あまりに薄っぺらい、一昔前のアニメのようなものですから、その辺で読者をしらけさせている部分が多いのではないかと思います。
といいますか、そこまで書いてしまうのなら、本格的スペースオペラのように、もっとその世界について深く書ききれないと一気に陳腐化してしまうと言うことです。
実際、その2つの組織の攻防は、とても現在世界を掌握しつつある組織同士の抗争とは思えないちゃちなものですし……。
正直、この組織の存在が物語の設定として存在しているだけならともかく、あまり表舞台には出すべきではなかったような気もします。

で、ミステリ部分なのですが。

やはり中途半端。
メイントリックは……う~~ん。
物理トリックはよいのですが(これは、北山先生が「物理の北山」と呼ばれるほど、物理トリック好きであることは有名ですので、ネタバレではないと判断)、あまりの古典的っぷりにしばし呆然。

まあ、その後のどんでんドンデンどんでん返しによって、読者にそれなりのカタルシス感を与えることには成功していますし、その部分はこの世界観に基づいた不可思議で退廃的な雰囲気とマッチしていて、なかなかの盛り上がりです。
私は結構気に入りましたが、その部分にいたって謎解きに多少のファンタジーテイストも入ってくるので、やはり駄目な人には駄目でしょうか?

とにかく、世界観も、描写も、ミステリ要素も、それぞれが魅力があるのに、すべてが中途半端な印象を受けました。が、デビュー作ですもの。充分続きを読んでみようという気にはなりました。

いろいろなレビューを読んでみると、とかく評価の低いものが多いのが残念です。とかくミステリ読みは、「謎」が残るのを好みませんので、その辺も影響しているような気がします。話を広げすぎた割には、ほったらかしに感じるところが多々あるのです。
でも、結局この小説は「世界」を描くものではなく、南深騎と菜美の物語なのです。そう思って読めば、結末もとても綺麗にまとまっているように思います。
二人の物語を修飾するための要素である「終末世界」の部分を変にリアルに広げすぎなければ、もっと多くの読者の心に素直に染みることができたでしょう。

続きが読みたいのですが、北山先生の「城シリーズ」はそれぞれが独立した物語のようです。でも、北山先生の世界を創り出すセンスを信じて次作に進みたいと思います。


以下、ネタバレありです。未読の方はご注意を


書評の冒頭に書きました「国民的大泥棒」とは、もちろんあの「~~~三世」でございます。カリオストロの城がちらついて仕方ありません(笑)

○○○での伯爵との決闘……。

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