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鬼のすべて (鯨統一郎)
書籍情報
著者 : 鯨統一郎
発行元 : 文藝春秋社
単行本発行 : 2001.9
発行元 : 光文社
文庫版発行 : 2008.4
現代の殺人事件を追いながら、伝承上の「鬼」の正体に迫る、鯨先生お得意の歴史・伝説の謎を絡めた作品。
こんな人にお薦め
- 心に「鬼」が棲んでいるかもしれないあなた
- 無難なところから鯨ワールドに入りたいあなた
- 鯨作品は本格ミステリとは言えないと思い込んでいるあなた
あらすじ
以下、文庫版裏表紙より転載
-
警視庁捜査一課の刑事・渡辺みさとは、友人の若江世衣子の死体を発見する。
あたかも鬼に見立てられた死体を……。
直後、新聞各紙に鬼と名乗る犯人から犯行声明文が送られてきた。鬼の意味するものは何か?
「日本から鬼を消す」という言葉を残し警視庁を去った男・ハルアキとともに、みさとは鬼の正体を追うが……。連続殺人と伝奇を見事に融合させた傑作推理。
書評
(鯨先生にしては) 王道の謎解きを楽しめます!
物語全体としては、民間伝承上の「鬼」の正体ということがキーワードになっており、事件自体も「鬼」に見立てたかのような殺人事件で、鯨先生のお得意のパターンだと言えます。
主人公の名前が「渡辺みさと」で殺された友人が「若江世衣子(せいこ)」であったりするのも鯨先生らしいところです。
そうなると、事件の解決も鯨先生らしい、良く言えばアクロバティック、悪くいえば本格ミステリとしてルール違反な香り漂うこじつけっぽいものになるかもと想像したのも致し方ありません。
しかし、今回はミステリとしては実に王道的な本格ミステリになっていたと思います。
事件は主人公で新米刑事のみさとが友人の世衣子と待ち合わせている公園で、からくり時計の中に仕込まれた世衣子の生首を発見するところから始まります。
その生首が、からくり時計の中の二本のタワーの飾り付けと相まって、「鬼」というキーワードが浮かび上がります。
友人の仇を討つためにもなんとしても犯人を見つけたいみさとは、彼女を疎んじる捜査本部長の堂間達の嫌がらせにもめげず、同僚で友人の元子や、「日本から鬼を消す」という言葉を残して警視庁を去った、元敏腕刑事のハルアキ達と協力して捜査を進めますが、さらに鬼に見立てたと思われる第二の事件が発生し、さらに、みさと達が目をつけた「鬼の権威」伊大知能成(いおち のうせい)も、切断された人差し指を残して失踪する……。
どうですか?
ばっちり本格ミステリです。
しかも、大きなワンアイデアに頼ったトリックではなくて、細かい手がかりを拾いながら、それを組み立てていくような構成で、なかなか考える気にさせてくれます。
また、「鬼」を絡めることで、なんだか心の奥の闇がテーマになっているような雰囲気もあり、それぞれの登場人物がみんな怪しく見え、さらにミスリードを誘う仕掛けもあったりして、楽しめました。
大筋の謎解きとしては、それほど難しいものであったとは思いませんが、色々細かい伏線もあったりして、大筋はわかっていたつもりなのに「なるほどぉ!」と思わせる点も多かったように思います。
正直なところ、鯨先生の作品は、その設定や、キャラの面白さ、文章の軽妙さが秀逸なものの、ミステリの質としては(本格ミステリという観点からすると)はっきり言って無茶なものが多いと私は思っています。
といっても私はそんなこじつけ満載の謎解きも、その作品のキャラ設定や雰囲気にあったものならば楽しめるので、「これが鯨ワールド」と思って、気に入っているのですが、普通のミステリファンに「この作家さんいいよ~」と無条件で薦める勇気は持てません。
でも、これなら薦められる。
鯨ファンとしては、逆に普通すぎて「あれ?」という気持ちもあるのですが、その分鯨先生のことをあまり知らないミステリファンの方には安心してオススメできる感じです。
もひとつミステリファンに対してキャッチ―なタイトルだとは思えないのですが、鯨ワールド未体験の方は手にとっていただきたい作品です。
今回は上で書いたように、ミステリとしての完成度もなかなかでありましたが、「鬼」の謎解きもなかなか見応えがありました。
最終的な結論自体は、鬼と聞いてまず「般若」や「鬼子母神」を連想してしまう私にするとそれほど意外なものではありませんでしたが、ミノタウロスにまで言及する謎解きの過程は面白かったです。
また、その「鬼」の謎解きが本作品では、現在の事件の謎解きから浮いてしまうことなく、最後まで事件の謎解きに密接ににまとわりついてくる感じが維持できていたのもとても良かったと思います。
それにしても、やはり遊ばないと気が済まないのが鯨先生ですね。
ラスト、まさかそう来るとは。
うはははは。
この本も千年語り継がせなければ……ね?
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