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月に吠えろ! 萩原朔太郎の事件簿 (鯨統一郎)
書籍情報
著者 : 鯨統一郎
発行元 : 徳間書店
新書版発行 : 2003.9
文庫版発行 : 2006.8
大正、昭和の詩人、萩原朔太郎を探偵役に据えた連作短編集。
詩人ならではのインスピレーションで事件を解決!
収録作品
- 第一話 死者からの手紙
- 第二話 閉じた空
- 第三話 消えた夢二の絵
- 第四話 目の前で消えた恋人
- 第五話 ひとつの石
- 第六話 怪盗対名探偵
- 第七話 謎の英国人
こんな人にお薦め
- 萩原朔太郎についてよく知っているあなた
- オーソドックスな短編ミステリが読みたいあなた
あらすじ
以下、文庫版裏表紙より引用
-
崖から転落死したはずの兄から連続して届く、謎の手紙。
明子はマンドリン教室の仲間である萩原朔太郎に相談を持ちかけるが……。「真実は、論理を超えたインスピレーションの中に隠れているもの」と豪語する朔太郎が挑む、七つの不可能犯罪。
書評
萩原朔太郎に詳しい人になら文句なくお薦め!
正直なところ、萩原朔太郎や当時の文壇についての知識がなければ、楽しみどころが微妙な作品です。
ミステリとしては……無茶か、分かり易すぎのどちらかです。
特に「目の前で消えた恋人」などは、こりゃねぇなぁと半分あきれながらも、鯨先生らしいなぁと、なぜか許せてしまいます。
というより、ミステリとしての質はよく考えれば、他の鯨作品と比べて特に低いわけではないんですよね。むしろ、鯨作品にしては比較的オーソドックスな本格推理と言ってよいでしょう。
それでは、どうして本作に限って、ミステリの質が気になってしまったのでしょう?
鯨先生の作品は本来ミステリの質よりも、波田煌子や間暮警部のような特徴あるキャラクターや、「喜劇ひく悲喜劇」「間暮警部シリーズ」のような異様に凝った趣向、誰でも知っている歴史的事実や歴史上の人物の登場など、いろんな要素をひっくるめたエンターテインメント作品として見たときにその魅力が倍増するように思います。
その点、この作品の主題の「萩原朔太郎」や大正詩壇というものがはちょっと色々弱かったのかな、と思ってしまうわけです。
やはり、歴史上の人物を登場人物に据える場合、元々その人物が持っている知名度やキャラクター性の強さがポイントでしょう。
もっとも、長編ならば一般的になじみが薄い人物でも深く書くことで、あまり一般になじみのない人物に新たな命を吹き込むことはできると思うのですが、やはり短編集の場合、特徴のあるキャラクターを描きつつ、実在の人物としての孫zないかんまで書ききるのは難しいのではないでしょうか。
特に、各話ある意味ワンパターンな展開を好む鯨先生の作風ならなおさらです。
ただし、萩原朔太郎という人物についてよく知る人ならば、他の鯨作品同様に、色々ニヤニヤしながら楽しめることでしょう。
元々探偵小説好きとしても有名ですし、毎回マンドリンを鳴らしながら登場するシーンなどもファンには嬉しい演出です。
人魚詩社の面々や師匠である北原白秋とのやりとりも楽しいです。
そして、各話の最後で語られる、事件と実際の萩原朔太郎の詩の関係などは、鯨先生お得意の手法で、やはりニヤリとすることができます。
とにかく、萩原朔太郎を知らない人に対しては、朔太郎がただのオンナスキーだったという印象を与えかねないということが気がかりではありますが、あまり特異な設定でないだけに、ちょっと息抜きにミステリでも、という人に幅広くお薦めできるようにも思います。
「謎の英国人」は楽しい趣向ですね~。
ま……まぁ、ありがちといえばありがちなのですが。
でも、変に最後の最後まで正体を読者に気付かせないようにするのではなく、まだらの蛇を飼ってたり、色の研究――特に緋色の!!――をしていたり、知っている人なら簡単にわかる伏線をばらまいて読者を楽しませようとする姿勢が、とっても鯨先生らしいと思いました。
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