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ふたりのシンデレラ (鯨統一郎)
書籍情報
著者 ： 鯨統一郎
発行元 ： 光文社
単行本発行 ： 2002.8
文庫版発行 ： 2005.9
証人、犯人、犠牲者、探偵役、ワトソン役、記録者、濡れ衣を着せられる容疑者、共犯者のひとり8役に挑戦する意欲作。
こんな人にお薦め
- 多少無茶でも変わった作品が読みたいあなた
- 「一人８役」この言葉にロマンを感じるあなた
あらすじ
以下文庫版裏表紙より引用
-
「ふたりのシンデレラ」を上演するため、合宿中の劇団を襲う惨劇。
主役を巡り、女優や演出家が対立する中、一人は殺され、一人は失踪、一人は重傷を負い記憶を……。
シンデレラが仕掛けた罠とは何か？事件の証人であり、犯人であり、犠牲者で、探偵役で、ワトソン役で、記録者で、容疑者で、そして共犯者でもある…… 一人八役の「わたし」が語る驚愕の真相とは。
書評
ホント鯨先生、無茶しますねぇ
証人、犯人、犠牲者、探偵役、ワトソン役、記録者、濡れ衣を着せられる容疑者、共犯者――こんなひとり8役にそもそも挑戦しようと思う鯨先生に乾杯！
全体的な雰囲気は鯨先生にしてはシリアスな雰囲気です。
小劇団「O-RO-CHI」の主演女優をめぐるなかなかドロドロした人間関係です。
その上あっちこっちで男女関係が生じています。
まあ、ありがちと言えばありがちなのですが、こんな人たちが合宿なんてしたら、そりゃ事件も起こるやね。
というわけで、当然事件が起こってしまいます。
道楽で劇団を主宰している医師・国友の別荘で合宿が行われるさなか、少し離れた研究用の病棟で火災が発生し、看板女優、天野川夕華と主役の座を争っていた夏村芽衣が焼死体で発見され、夕華もやけどを負って倒れていた。
……そして、夕華の夫で役者の天野川敬介が行方をくらました。
夕華と芽衣の確執は主役をめぐるものだけではなく、夫敬介をめぐるそれもあったことから、姿を消した敬介が犯人だと考えられるものの、意識を取り戻した夕華は記憶を失っており……といった感じで物語は進みます。
よく頑張った！！
この作品は(わたしは未読ですが)探偵、被害者、証人、犯人の一人4役を標榜したセバスチャン・ジャプリゾの「シンデレラの罠」へのオマージュとして書かれたっぽいのですが、それを超える一人8役に挑み、成し遂げたことに対しては素直に感嘆です。
閉ざされた空間にいた人物はたった9名。
元々アクロバティックなトリックを得意とする鯨先生といえども、始めに一人8役ということを公言しているという制約の中で、謎を構築しながら、読者を欺くのは大変だっただろうと推察します。
実際読了後の感覚としては、まさにぎりぎり。
とにかく、この一人8役を成立させるためには、表面的に見えている事件像のままでは絶対に成り立たないものですから、読者側にどんでん返しの位置が見えやすくなってしまうのですね
謎の骨格も読者側からするとどうしてもおぼろげには見えてしまいます。
そしてそれでも読者をだまし通そうとすると、必然的にちょっとあり得ないようなトリックを使わざるを得ない。
しかもそれが行き過ぎると今度はミステリとして陳腐なものになってしまう。
その辺のバランスが絶妙というよりも、ぎりぎり。
つまり、ミステリに現実性を求める読者にはアウトかもしれませんが、物語として多少の無茶を楽しむ余裕を持っている読者にとっては何とか許容範囲といった感じ。
とにかく、この作品に関してはミステリの完成度の高さ云々は抜きにして、鯨先生がどうやってこの一人８役を成し遂げたのか、それを素直に楽しんでいただきたいと思います。
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