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「神田川」見立て殺人 間暮警部の事件簿 (鯨統一郎)
書籍情報
著者 : 鯨統一郎
発行元 : 小学館
新書版発行 : 2003.2
文庫版発行 : 2006.4
間暮警部がその美声に載せて昭和のヒットソングを歌うとき、鮮やかに見立て殺人の謎が解明される。
間暮警部の事件簿シリーズ第一作。
収録作品
- 第一話 「神田川」見立て殺人
- 第二話 「手紙」見立て殺人
- 第三話 「別れても好きな人」見立て殺人
- 第四話 「四つのお願い」見立て殺人
- 第五話 「空に太陽があるかぎり」見立て殺人
- 第六話 「勝手にしやがれ」見立て殺人
- 第七話 「懺悔の値打ちもない」見立て殺人
- 第八話 「UFO」見立て殺人
- 第九話 「さよならをするために」見立て殺人
こんな人にお薦め
- 懐メロ好きなあなた
- 迅速解決なミステリが好きなあなた
- 鯨先生の作風を知りたいあなた
あらすじ
以下、文庫版裏表紙より転載
-
レストラン〈ブルーリップ〉の美人ウェイトレスが全裸死体で発見された。
容疑者にはアリバイがあり、被害者には過去があり、目撃者には邪心があった。
そこに現れたのが間暮警部。
持ち前の美声で昭和の名曲を歌ってから言い放つ。「犯人はこの中にいます」
―― 表題作ほか「別れても好きな人」「四つのお願い」「ざんげの値打ちもない」「さよならをするために」など懐かしいヒット曲に隠された事件の真相とは――。
書評
ある意味鯨ミステリの真骨頂?
なんというか、非常に鯨先生らしい作品です。
ワンパターンに繰り返される物語。
こじつけっぽい推理。
はじけるミーハー知識。(ただし昭和)
鯨先生ってどんな作風なの? という問いには「この作品を読め」と答えます。
正直言って、これが鯨作品の中で、特に出来の良い作品だとは思いませんが、鯨先生らしさという意味ではピカイチだと思います。
一冊の短編集で延々と繰り返されるワンパターンさを支える今回のトンデモ設定は、昭和の名曲たちと、その名曲に見立てられた殺人事件です。
主人公の間暮警部は大川探偵事務所の面々と事件関係者がいるところに颯爽と現れて、ものすごい美声で昭和の名曲を歌い始めます。
そして歌い終わると、宣言します。
「この事件は見立て殺人です」
そして
「この部屋の中に犯人がいます」と。
探偵事務所の面々以外の事件関係者が一人しかいなくても言っちゃいます。
まあ、無茶苦茶ですが、これで終われば、あの波田煌子張りの超絶推理なのですが、間暮警部の場合はちょっと違います。
見立て殺人だとする根拠は、もはやとんちクイズのようなこじつけっぷりです。
犯人を指摘はしても、その理由はなかなか言いません。
実際にミステリ的な解決を導き出すのは、大川探偵事務所の小林君とひかるです。
彼らがマグレの指摘によって再び事件を洗い直して真相にたどり着くのです。
それでも当然のごとく、犯人は間暮警部の指し示した人物です。
とにかく間暮警部の推理は無茶苦茶なのに、なぜか結果だけはずばり的中しているのです。
言ってみれば、事件解決という意味では、間暮警部の存在はあまり意味がないと言えます。(事件を洗い直すきっかけにはなっていますが、それだけのためにこんなエグイ設定は要らないわけでw)
それでも、その「要らない部分」にこそ、鯨ワールドのエッセンスが詰まっているのです。
鯨先生の作風には「こじつけ」の面白さというものがあると思います。
普通のミステリファンが鯨先生の作品を読むと、はじめはあまりのこじつけ度合いに陳腐さを感じてしまうかもしれません。
しかしはまってしまうと、逆に普通のミステリ的、論理的解決だけでは満足できなくなること請け合いです。
抜け出すことは困難です。
馬鹿馬鹿しいと思いつつ(失礼!)ついつい手に取ってしまうのです。
それにしても、緊迫したシーンでいきなり登場して、歌い始める間暮警部といい、いつもそのそばに控えて、音楽を流したり、マグレと共にこれまたすごい美声で歌ってみたりと大活躍の谷田貝美琴(刑事ですw)といい、シュールでよいです。
ワタシ的には、マグレに頼まれてひかるが、歌い始めるとばっちり振り付けまでキメて谷田貝さんと「UFO」をデュエットするシーンが好きですが。
ただ、この作品(シリーズ)のウィークポイントは、出てくる歌を知らないともう一つ楽しめないことですかねぇ。
私も(聞いたら知ってるかもしれませんが)わからない歌が数曲あり、やはり面白さは半減でした。
が、この置いてきぼり感も許せてしまうのは、鯨先生のミーハー的熱意を文章を通して感じてしまうからでしょうか?
UFO = Under Foot Orange はないぞ!
うははは。
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