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鬼女の都 (菅浩江)

書籍情報

著者 : 菅浩江
発行元 : 祥伝社
単行本発行 : 1996.10
新書版発行 : 2001.9
文庫版発行 : 2005.8

菅先生初のミステリ長編。
「京都」をキーワードにして語られる、時代小説系の人気同人作家の死の謎。

こんな人にお薦め

  • 現実よりも濃い京都を堪能したいあなた
  • 能楽や源氏物語に関する基本知識があるあなた
  • 幻想的風合いの強いミステリが好きなあなた

あらすじ

文庫版裏表紙より引用

「あさましい鬼がいてるのン」京都ものの小説で人気の作家藤原花奈女(ふじわら・かなめ)が謎の言葉を残して死んだ。
彼女は〈ミヤコ〉という人物に次作の構想を酷評され、絶望していたという。
彼女の死後も呪詛を込めた手紙を送り続ける〈ミヤコ〉とは何者か?
真相を追う女子大生吉田優希(よしだ・ゆうき)を次々と怪事件が襲う。

「幻想」と「論理」という対象の方法論を融合した本格推理の傑作!

 

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書評

京都120%!!

SF作家、菅浩江先生初の本格ミステリです。
京都在住でご自身「京女」で(あろうと思われる)いらっしゃる先生らしい、これでもか! というくらい京都エッセンスが詰め込まれています。

時代小説系の人気同人作家、藤原花奈女が鍵のかかったマンションの一室で手首を切って自殺した……、という事件から始まる物語。彼女を敬愛する同人仲間、吉田優希達三人が、花奈女のルームメイトで親友の梶久美子達と共に死の真相を追いかける。というのが大まかなあらすじなのですが、何か普通の推理小説とは異なる趣を感じさせます。

謎を追う優希達の前には、プロデビューを控えた花奈女の次回作の構想を酷評した「ミヤコ」なる謎の人物の存在がクローズアップされます。

面白いのはそのミヤコなる人物がクローズアップされているにも関わらず「京都の町」自体が、その積み重ねられた死の歴史の中で培われた力を持って、花奈女を死に追いやったのではないか?という視点を保っているところです。
このような一種の怪奇もの的な視点と、本格ミステリ的な視点が見事に融合しています。

このあたりはさすがSF作家さんだな、と感心させられます。
もっとも、このような雰囲気の中でも、謎はあくまでも論理的に解明されてゆきますので、ミステリファンの方はご安心を。

さて、この物語のもっとも大きな特徴は「京都」です。
かなーり極端な「京都」という世界が描かれています。

現代の京都を舞台とし、その現代的風景を描きながらも、主要登場人物達は極端なまでに古き良き京都にこだわります。
非の打ち所のない「京女」として描かれる花奈女、その花奈女に心酔する優希、同人仲間の櫻やちなつ、花奈女の親友、久美子、そして京都在住の優希の兄、忠夫の友達で時代錯誤男の「沓臣」(はるおみ)と料理屋を営むこちらもコテコテの京女の「陶子」(とうこ)などなど。
みんな揃って、京都とはなんぞや、京女とはなんぞやということを語り尽くします。
また、ミヤコが花奈女の死後も優希達に送りつける呪詛のような手紙には、源氏物語を題材とした能楽「葵上」が引用され、あくまでもいいたいことをストレートに表現しない京都らしい「仄めかし」的な内容になっているという凝りようです。

正直に言えば、ちょっと大げさすぎる感じがしないでもありません。
言ってみれば、山村美紗サスペンスでコテコテの京言葉を話し続ける山村紅葉のよう。
わたし自身が大阪出身ですが、京都には学生時代から現在まで住んでいますので、これだけ濃い描写だと、かえって別の世界を覗いているように感じるのです。

しかし、この作品は、都としての京都、都人としての京都人、そしてそれを象徴する京女というものにこだわり尽くさないと、そもそも成り立たない物語です。
読後、京都なんて単語はしばらく聞きたくないと感じてしまうくらい、京都でおなかいっぱいになってしまいますが、その偏執的なまでの京都へのこだわりが、この作品を単なる京都を舞台にした推理小説ではなく、京都という町自体が事件の黒幕であるかのような一種幻想的な雰囲気を創り出しているのです。

実は、たいした事件は起こってないのですね。(推理小説としては)
それなのに、読んでいる最中は、とてつもなく大きな、暗い奔流に巻き込まれている気分を味わえます。

菅先生は本来SF作家でいらっしゃいます。

短編ならともかく、長編の場合、世界観がいいかげん(細かければよいということではありません)だと、そもそも読者の心にその世界のイメージすら生まれないジャンルだと思います。
そのようなSF的世界を創り出す素養のある菅先生だからこそ創り出すことが出来た「京都」という名の生き物。その得体の知れない生き物が、登場人物達を黒い霧で飲み込んでいるような雰囲気なのです。

しかし残念ながら、この作品はまだまだ広く読まれている、というところまで至っていないと思われます。
この作品の後に刊行された「永遠の森 博物館惑星?」は、「ベストSF2000」国内篇第一位、第32回星雲賞日本長篇部門、第54回日本推理作家協会賞を総なめですし、日常の謎を描いた「歌の翼に ピアノ教室は謎だらけ?」もとても面白い。

このようにミステリ作家としても非常に類い希な表現力をお持ちの菅先生の、まさに渾身、と言えるこの作品をもっとたくさんの方に読んでいただきたいと思います。

ただ、多少をハードルは高いかもしれません。
わたしは学生時代から京都に住み、自分自身能楽を演じていた経歴がありますので、すんなり理解できましたが、(特に能楽に関しては)予備知識がないと、肝心なところがもう一つ消化不良に陥る可能性があります。

あえて、敷居を下げないところが、菅先生の京女らしさなのかもしれませんね?

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