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歌の翼に - ピアノ教室は謎だらけ (菅浩江)
書籍情報
著者 : 菅浩江
発行元 : 祥伝社
新書版発行 : 2003.5 NON NOVEL
SF作家・菅浩江先生の「日常の謎」ミステリ短編集。
街のピアノ教室で子ども達を相手にピアノを教える亮子先生が、彼らの抱える様々な謎を、深い洞察力で鮮やかに解決しながら、自分自身が抱える過去の傷からの脱却へ向かう、連作短編集。
掲載作品
- 第一話 バイエルとソナチネ
- 第二話 英雄と皇帝
- 第三話 大きな古時計
- 第四話 マイウェイ
- 第五話 タランテラ
- 第六話 いつか王子様が
- 第七話 トロイメライ
- 第八話 ラプソディ・イン・ブルー
- 第九話 お母さま聞いてちょうだい
こんな人にお薦め
- 日常の謎系のミステリが好きなあなた
- 音楽家の紡ぐミステリ世界を経験したいあなた
- ミステリで感動してもいいじゃない、なあなた
あらすじ
以下新書版裏表紙より引用
-
「私、変な男の人を、見たの!」
楽器店二階の音楽教室で、生徒の小学生ユイカが泣き出した。
商店街周辺に変質者が出没していた矢先の事件―だが、少女と弟の証言が微妙にズレて…(第一話「バイエルとソナチネ」)。
ピアノ教師杉原亮子が解きほぐす生徒たちの心の襞と綾。
そして音楽大学を首席で卒業しながら、人前で演奏できなくなってしまった亮子自身の過去の秘密。些細な事件や奇妙な悩みを、亮子先生が穏和な推理で鮮やかに解決する癒しのミステリー連作。
書評
シンプルなピアノ小曲が似合うミステリ
街のアットホームな雰囲気のピアノ教室で子ども達にピアノを教える亮子先生が、生徒達が抱える問題を鋭い洞察力で解決しながら、自分の心に抱える問題を解決してゆくという連作短編集です。
自身音楽、芸術に造詣の深い菅先生の作品ですから、作品全体にピアノの小品がBGMとして流れているかのような、繊細な雰囲気に包まれた作品になっています。
この作品よりも前に発表された「永遠の森 - 博物館惑星」ではもっと壮大に芸術全般を扱っていたのに対して、子ども相手のピアノ教室ということですが、やはりこちらも経験者にしか醸し出せない高尚な雰囲気が漂っています。
そして、そのような舞台設定ですから物語もいわゆる「日常の謎」系統のもの。
……なのですが、物語後半になってクローズアップされてくる、亮子先生の秘密が……「重い」というよりは「生々しい」
もちろん、人間いろんな辛い過去を背負って生きているものですから、それに触れることがいけないわけではないのですが、なんというのか……物語全体の空気に対してやっぱり「生々しすぎて」読後感がもう一つでした。
そのような過去があるからこそ、単なる世間知らずのお嬢さんでいられずに、人間に対する洞察力を磨かざるをえなかった亮子先生という人物が存在しているわけで、物語に深みを与える要素になっているのはわかるのですが、「重くてもいいからもう少し生々しくないように」描写されていた方が良かったような。
難しいところですね。
人間ドラマとして考えれば、敢えて物語の静かな空気を壊してしまうほどの過去の傷が明らかになる、というのも効果的で、より一層リアルな人間を描けていると評することも出来るのですが、日常の謎系のミステリ作品、しかも上述の通り、子ども達の日常に潜むささやかな謎を主題とするこの作品に、読者はそのような生々しい人間描写を望んでいるのでしょうか?
好みの問題といえばそうなんですけどねぇ。
でも、今回再読な訳ですが、好きな作品なんですよね。実は。
だからこそ、その優しい物語世界にぴったりマッチしたヒロイン像をわざわざ崩してくれなくてもいいのに、という風に思ってしまうのかも知れません。
ミステリとしては「ささやかな謎」という言葉がふさわしい軽い謎が多いです。
「いつか王子様が」などは謎解きとしては強引にも感じましたが、大切なのはいわゆる「トリック」ではなく、子どもをしっかり見つめる亮子先生の視点なので、そこに不満はありません。
このあたり、ミステリの核とも言うべき「謎」の扱いも、ただの謎解きではなく、とても繊細な人間ドラマになっていて、殺伐とした事件に食傷気味のミステリファンはもちろん、幅広い読者にオススメできると思います。
なんにせよ、この繊細さも、生々しさも、女性作家ならではと感じます。
それはともかく、もともとSF作家さんなのは十分承知しているのですが、菅先生!もっとミステリも書いてください~~~!!
何度も言います。
ケチをつけた割に、やっぱりこの作品好きなんです。私。
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