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脳男 (首藤瓜於)

書籍情報

著者 : 首藤瓜於
発行元 : 講談社
単行本発行 : 2000.9
文庫版発行 : 2003.9

首藤先生のデビュー作。
第46回江戸川乱歩賞受賞作。満場一致での受賞だったようです。

続編は2007年刊行の「指し手の顔 -脳男Ⅱ」です。

こんな人にお薦め

  • サイコミステリーっぽいのが好きなあなた
  • スリルのある展開が好きなあなた

あらすじ

以下、文庫版裏表紙より引用

連続爆弾犯のアジトで見つかった、心を持たない男・鈴木一郎

逮捕後、新たな爆弾の在処(ありか)を警察に告げた、この男は共犯者なのか。
男の精神鑑定を担当する医師・鷲谷真梨子は、彼の本性を探ろうとするが……。
そして、男が入院する病院に爆弾が仕掛けられた。

全選考委員が絶賛した超絶の江戸川乱歩賞受賞作。

 

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書評

鈴木一郎という謎にもっと深く切り込んで欲しい!

いきなり否定的な出だしで始まった今回の書評です。
が、実はなかなか面白い。

物語は、連続爆破犯のアジトに茶屋刑事達、捜査班が踏み込むところから始まります。
なかなかの臨場感です。
しかし現場には犯人と目されている緑川だけではなく、緑川ともみ合っているもう一人の男が。その男こそこの物語の中心人物、鈴木一郎です。

結局緑川を取り逃がしてしまった警察は、犯人一味として鈴木一郎を逮捕し、その後鈴木は精神鑑定のため医師、鷲谷真梨子の元へ連れてこられるのです。

ここに至るまで、爆破事件の経緯や爆破犯が緑川であることを警察が突き止めるプロセスも描かれますが、ふくらませばそれなりにひとつの物語になってしまいそうな、なかなかのリアリティと緊迫感があります。

しかし、この物語はここからが本番です。
ここから後半、鈴木が入院している病院に爆弾が仕掛けられるクライマックス直前までは、延々と「鈴木一郎」自身の謎を解く過程が語られます。
妙に模範的な言動で、さまざまな検査結果まで計ったように平均値をたたき出す鈴木。
その漠然とした不自然さに疑問を持った真梨子は、鈴木の過去を探ることでその謎を探ろうとします。

そして徐々に明らかになる鈴木の本質はさすがに特異なものでした。

端的に言うならば、一切の感情を持たず、さらに本能さえも欠落している人間という感じでしょうか。
しかし、そうであるならなぜ鈴木はいま、こうして普通人と同じ振る舞いをして、しかも爆破事件に関連しているのか?

このように鈴木一郎という人間の謎が深まる中、彼らのいる病院に爆弾が仕掛けられ、クライマックスへとつづきます。
鈴木を中心に、彼に深い興味を持ちながら患者として彼を擁護する真梨子と、真梨子の説明を聞きながらも鈴木への疑惑を払いきれない茶屋刑事が,見えない爆破犯と対決するこのシーンは、冒頭部分と同じくなかなかスリリングです。
爆破犯に対抗する手段を講じる描写が科学的にリアルに描かれており、爆破犯がさらにその裏をかき続ける展開が、とても精密かつスピード感にあふれており、首藤先生の文章力を感じさせます。

あえて、鈴木の謎にはあまり深くは触れませんでしたが、この部分がこの物語の中核であり、かつ、この作品の特異性の原因であることは間違いありません。
もちろん鈴木の過去を探っていくプロセスも爆破事件と同じく読者を引き込む雰囲気を持っています。

なのに、なぜでしょう?

なんだか読後に残る肩透かし的感覚。

自分なりに考えると、その原因は以下の通り。

まず、ミステリとしてのクライマックスに欠けることでしょうか。
というのは、爆破犯については、はじめから見えていた通りで、大したどんでん返しはなく、鈴木の謎についても、徐々に明らかになってくるその答えは魅力的なのですが、やはり一本道な感じで、驚きを感じるような転換点に乏しかったように思います。
謎が非常に魅力的であるので、そこにもう少しどんでん返し的要素があれば、ミステリとしてもっと楽しめたように思います。

そして、もう一つの原因は「鈴木一郎」という人物が描き切れていない気がするということです。
とにかく、上で述べた通り、本来感情はもちろん、本能すらなかったであろうと思われる鈴木というキャラクターは、ミステリの登場人物としては希に見る特異さです。
特異すぎて、普通の作家さんならそもそもろくに鈴木という人物の行動を描くことは困難でしょう。
感情がないだけならともかく、本能すら欠落している人物像なんてそうそう描けるものではありません。
その点、首藤先生は過去の描写を含めて、一種非現実的なキャラクターだと言える鈴木を現実の存在として描くことに成功していると思いますので、やはりその表現力はプロの作家さんの中でも一歩抜け出ているようにすら思われます。

しかし、冒頭の爆破犯との格闘シーンや、後半のクライマックスシーンでの彼の言動は、なんだか普通の正義の味方みたいです。
また、彼が以前小さな新聞社の社主をしていたというのも、あまりにもイメージが結びつきません。
もちろん、いろんな要素があっていまでは自我が芽生え始めている、という設定なのかもしれませんが、たとえていうならホンダのロボットアシモ君が、いきなりドラえもんになってしまったかのような。
能力の特異性(記憶力や身体能力など)はあくまでもそのままなのに、人格的な部分だけが,どんどん普通の人っぽくなっていることから生じる違和感かもしれません。
自我が芽生えれば、記憶力はともかく、痛みや苦痛を感じないといった特性は必然的になくなるように思うのです。

結局のところ、本当の謎は、鈴木一郎の症状がどんなものか、ではなく、そのような症状を持っていた鈴木一郎がどういう経験をして今の状態になったのか、ではないかと思うのです。
普通のミステリでも探偵の過去などが明かされないまま終わることはよくあることですが、この物語の場合、これこそ中心的な謎なのですから、そこの解明が中途半端だと肩透かし感を感じても仕方ないところです。

まあ、これらの批判はこの作品の基本的水準が高く、かつユニークなものであるからこそ、もっと高い完成度のものを見たくなるという、贅沢きわまりない意見だと我ながら思います。
鈴木が昔の状態からどのような経緯で新聞社の社主となり、今に至ったのか、そのあたりの物語がぜひ読みたい!

一読の価値はありますですよ?

 

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