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シクラメンと、見えない密室 - 魔女の花だより(柄刀一)
書籍情報
著者 : 柄刀一
発行元 : 実業之日本社
新書版発行 : 2003.10 ジョイ・ノベルス
発行元 : 光文社
文庫版発行 : 2006.11 光文社文庫
様々な花に彩られた喫茶店に持ち込まれた事件もまた花と関わりを持つ。
そんな事件を喫茶店のミステリアスな女主人が鮮やかに解決する短編集。
収録作品
- 勿忘草のプロローグ
- 3月 傷とアネモネ
- 4月 連続殺人とハシバミの葉
- 5月 シクラメンと、見えない密室
- 6月 クリスマス・ローズの返礼
- 7月 オークの枝に、誰かいる
- 8月 おとぎり草と、背後の闇
- 9月 夾竹桃の遺言
- 勿忘草のエピローグ
こんな人にお薦め
- 花、花にまつわるエトセトラが好きなあなた
- 奇抜なシチュエーションや謎が好きなあなた
- 魔法とか魔女に目がないあなた
あらすじ
以下新書版裏表紙より引用
-
扉をあけるとオジギソウが挨拶をしてくれる、花に彩られた喫茶店。
美しくミステリアスな店主とその娘が、悩める客が持ち込む謎を鮮やかに解き明かす。
遠隔殺人、見えない密室、同時に4つの場所に出現した男…驚くべき不可解な現象の数々。
その不可能が可能になるカタルシス。
そして最終章で明らかになる壮大なる仕掛け。柄刀一は、本格を踏まえ、本格を超えた―。
書評
ちょっと洞察力ありすぎな魔女探偵
未亡人である美奈さんと小学四年生の娘、奈子ちゃんが営む喫茶店「美奈子」を舞台に、そこへ持ち込まれる事件を美奈さんが異様とも言える洞察力を発揮して鮮やかに解決する――そんな短編集なのですが。
年齢の割にいっこうに衰えない若い美貌と、円熟した達観を見せる美奈さんと、無邪気でおませな仕草の中にも底知れぬ深さを見せる奈子ちゃん、そして二人と店を程よい調和で彩る草花が序盤からミステリアスな雰囲気を醸し出していて、普通のミステリとはひと味違った空気を感じさせます。
季節の移り変わりと共に異なった草花をモチーフにした事件が語られます。
事件ごとに直接のつながりがあるわけではありませんが、事件の当事者として登場した人物がその後の物語で登場してきたりしますし、美奈さんの謎が季節の移ろいと共により一掃深まってゆく構成となっており、連作短編集的な味わいがあります。
ミステリとしては、上述の通り「花」と絡めた事件という、ミステリとしては変わったものが揃っていますので、それだけでも新鮮な気分で読めること請け合いですが、その状況も一見して不可思議なものがあり、楽しめます。
特に、マンションの自室の鉢植えをハシバミの葉で激しく叩くと、同時に別のマンションに住む女性が、あたかも自分が叩かれたかのような苦痛の様を見せる「遠隔殺人とハシバミの葉」や、同時に全く異なる四カ所で目撃された男の謎を描く「おとぎり草と、背後の闇」などはなかなか鮮烈な印象がありました。
ただ、この物語は美奈さんの卓越した洞察力を前提としているので、事件の状況と真相自体は奇抜で面白いものの、推理の過程は多少強引といいますか、美奈さんが説明した推理の根拠を聞かされても、そこから結論を導くには少し一足飛びに過ぎる印象がありますので、論理をもって本の中の探偵と共に事件解決に挑みたいタイプの方にはちょっとオススメしにくいかも知れません。
また、後半はかなりファンタジー色が濃くなってきますが、事件自体はあくまでも現実世界の論理で解決されますので、そのあたり、本格ミステリファンの方はご安心を。
全体として、面白い趣向、奇抜な謎と文句ない構成ながら、実は私は読み進めるのに多少時間がかかりました。
「天才龍之介」シリーズなどはかなりすらすら読めた印象ですし、実際この物語も文章も平易なもので、難解だから読みにくいというわけではなかったのですが……なんなんでしょう?
まあ、相性の問題かもしれませんが。
それでも客観的にはオススメできる作品であることに違いはありませんよ?
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