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金糸雀が啼く夜 薬屋探偵妖綺談 (高里椎奈)

書籍情報

著者 : 高里椎奈
発行元 : 講談社
単行本(ソフトカバー)発行 : 2000.5
文庫版発行 : 2006.9

落ち着いた好青年座木(くらき・通称 ザキ)、超美少年の深山木秋(ふかやまきあき・通称 秋)、赤毛で元気いっぱいな少年リベザルが営む「深山木薬店」を舞台にした「薬屋探偵妖綺談」シリーズの第4作。

こんな人にお薦め

  • キャラ萌えな(今回は特にザキ好きな)あなた
  • 本格ミステリとは? なんてことにあまりこだわらないあなた

あらすじ

以下 文庫版裏表紙より引用

深山木薬店の三人組に分裂の危機が!
展覧会からサファイアを盗み出す犯罪計画に巻き込まれた座木とリベザル。だが一方で秋は盗難警備の依頼を受けていた!
さらに、対決の場に突如現れた道化師の死体とは?
混乱する事態はいかなる結末を迎えるのか?

花屋の主従コンビが新登場する快調シリーズ第4弾。

 

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書評

ファンなら楽しめますが「推理小説」ではありません

前作「悪魔と詐欺師」はファンタジー色が強い作品だという評価を良く耳にしますが、本作は更にそれに輪をかけてファンタジーです……というより推理小説ではありません。

事件としては一応インパクトのある事件なのです――シャンデリアが落下して、人が下敷きになりつつ、同時に道化師の死体も登場。更にサファイアを巡る秋 VS 座木、リベザル+花屋さんの2人の駆け引き、とてんこ盛りなのです。
まさにミステリのためにあるような舞台設定だと思うのですが。
しかし、それでも高里先生の眼には、これだけの豪華ミステリ的舞台装置が揃っていても、自分の中の世界をふくらませる道具としか映っていなかったのでしょう。

……こう言いますと、けなしているように聞こえるかもしれませんが。

違います。

さすがです。

この「薬屋」シリーズの世界観の原形は、高里先生が昔から胸中に暖めてきたものであることは有名です。
おそらく、一朝一夕に作り上げた世界観であれば、このような作品をーーメフィスト賞作家が講談社ノベルスから――出版するだけの思い切りはもてなかったかもしれません。少なくとも、もっとミステリ分の濃いものになっていたのではないでしょうか?

もちろんミステリ好きの私個人としては、肩透かし的な感じがあったことは確かですが、それを上回る、広がってゆく世界の物語を読むという楽しさがありました。
それも、よくあるマンガのように、敵を倒してもどんどん新たな敵が出てきたり、連続ドラマのように次から次へと無理矢理な「意外な展開」が待っているわけでもありません。
登場人物達の成長を描くことで世界がどんどん深まってゆくところに好感が持てます。
第一作「銀の檻を溶かして」はシリーズ全体のプロローグみたいなものでしょうが、第二作、第三作とリベザルの葛藤と成長に焦点を当てたこのシリーズは、本作で意外な人物に焦点を当ててきました。
正直「そうきたかぁ」と思いました。

また、徐々に秋達の過去にもスポットが当たってきたようです。それも直接的な描写ではなく、サファイアの謎と絡めてあくまでもそっと触れられています。
このあたりにも高里先生がこの世界を大切にしていることが伝わってきます。

余談ですが、リベザルファンの方には、今回少々出番が少なく残念だったかもしれませんが、そのかわりに座木の人間(じゃないけど)臭さがようやく見えてきて、今後の3人の絡みに深みがますことは間違いないでしょうから、仕方ないですね~。

ただ、やはりここを指摘せずには終われませんが……やはりミステリ部分は完全に消化不良でした。なんだか無理矢理ミステリ要素を詰め込んだような感じがします。

高遠刑事による殺人事件の解決は、超人過ぎです。
あれなら秋は今後探偵役をする必要はなさそうなのですが。

おそらく今回はミステリ部分に量的にもあまり多くを回せなかったのだとは思うのですが、それならあんな派手な殺人事件ではなく、もっとコンパクトにまとまるべき事件にされた方がよかったと思います。犯人の動機なども描写が浅すぎてまったくしっくりきませんでしたしね。

とにかく、私はまだこの先は未読なのですが、きっとこのシリーズの今後の展開のためにもこの作品は重要な位置にあるのではないでしょうか?
既に先を読んでいる方。
私の見当外れなら笑ってスルーしてください。

でも、そう思わずには入られないキャラの深まりと、世界の深まりを感じた一冊でした。

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