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緑陰の雨 灼けた月 薬屋探偵妖綺談 (高里椎奈)

書籍情報

著者 : 高里椎奈
発行元 : 講談社
新書版発行 : 2000.9 講談社ノベルズ
文庫版発行 : 2007.1 講談社文庫

落ち着いた好青年座木(くらき・通称 ザキ)、超美少年の深山木秋(ふかやまきあき・通称 秋)、赤毛で元気いっぱいな少年リベザルが営む「深山木薬店」を舞台にした「薬屋探偵妖綺談」シリーズの第5作。

元気な女子高生を襲う怪異と、彼女の高校で頻発する失踪事件に三人+野狐の柚之助が挑む。

こんな人にお薦め

  • 優しい世界が好きなあなた
  • 「本格」であることに強くこだわらないあなた
  • やっぱりキャラ萌えなあなた

あらすじ

以下新書版裏表紙より引用

葉月下旬、やたら元気な女子高生の身の上に、奇怪な事件が降りかかる。

依頼を受けた、秋、座木、リベザルは、非慈善事業の妖怪退治に乗り出すのだが……。
事件の裏には、心を曇らす哀しみの雨が。

薬屋三人組は、暮れゆく夏に快晴を取り戻せるか?
ミステリー・ファンタジスタ高里椎奈の傑作シリーズ・第5弾。

 

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書評

謎解きなんておまけですよ!

もう、ミステリとして評するのはやめようか?

薬屋探偵シリーズの第五弾。
ここに来て、さすがのわたしもこのシリーズにまっとうな本格ミステリ的展開を期待してはいけないということを学習しております。

それなのに。
ミステリ好きにはなんとも美味しそうな展開に。

秋の元に預けられた、柚之助なる少年(っぽい見かけ)
野狐ということですので、狐の妖怪かな?
当然何か曰くがありそうです。

そして持ち込まれる事件は女子高生、エリカの家に「お化け」が出る、というもの。
誰も手出しができないはずの家の中で、奇怪な出来事が頻発するとのこと。
しかし彼女は暴君な性格らしく、幼なじみの道長君とは少し前に派手な喧嘩をしたようで、奇怪な出来事もその頃から始まっている……?

そんなエリカさまをリベザルと柚之助の護衛付きで温泉宿に避難させた秋と座木は、彼女の通う高校にターゲットを絞り、調査を開始するのですが、そこでは数々の「学校の怪談」的噂があり、実際に生徒の行方不明事件もかなり前から起こっている模様。

その上、避難したエリカさまには、追いかけてこないはずの怪異がさらに降りかかる……。

どうですか?
ファンタジー色があるのは当然としても、なかなかいろんな事情が絡み合っていそうではありませんか?

……だったのですが。

やはり結論はミステリとしては中途半端です。
ネタバレ甚だしいので、詳しくは書きませんが、謎解きとしては強引だったり、肩透かしだったりいたします。
もう少し丁寧に謎解きの過程が描かれないと、凝った事件は強引な解決に見えてしまいますし、単純な事件は単純なままで終わってしまいます。

それでも……それでも面白いのがこのシリーズのニクいところです。
シリーズ作品の他の書評でも書いている通り、このシリーズのキモはやはりキャラクターの魅力だと思うのですが、よくよく考えてみるとそれほど深く人間(じゃないけど)の内面を描いている、というわけではありません。

色々葛藤があったりもしますが、少なくともメインキャラクターに関しては、基本みんな優しいし、悩むにしても直線的な悩み方です。
一番性格的に謎めいている秋ですら、仲間に対する愛情は隠しきることができずにその言動から溢れかえっています。

あえて言うなら「浅い」描写ではあるかも知れません。
でも、この高里先生の世界で動き回る彼らは、これ以上複雑な人間臭いキャラクターになってほしくはありません。
といっても悩みや葛藤を否定するのではなく、素直に悩んでほしいのです。
大人になりきれないオトナのための童話、という表現が合うかも知れません。
高里先生の描く、幻想的で、いろんな事件が起きる割には牧歌的な優しいこの世界には、いろんな事情を抱えながらもひたすら濁り気のない、澄み切った優しさを持つ彼らがよく似合うのです。

本作で、秋達薬屋の面々の他に登場するエリカさま、道長、彼女たちと同じ高校に通う栗東(りと)、美浦、探偵のつるちゃんなど、誰をとっても同じこと。
みんなそれぞれ傲慢だったり、温和だったり、元気ッ娘だったり、優しい大人だったりと、いろんな性格を持っていて、暴力をふるってみたり、コンプレックスを持っていたり、嘘をついてみたりと、人間臭い裏の顔ももっていますが、やっぱりみんな、良くも悪くも素直です。

わたしは、このシリーズは初読ですので、先の展開は知りません。
この先、この世界にさらに優しさが満ちるのか、どこかで亀裂が入るのか、知るよしもありません。
でも、優しさに満ちた世界というものは現実的にはとてももろいものだということは知っています。
この作中世界でも、誰かの些細な行動が思わぬ不均衡を招くことは容易だと思います。
ましてや子ども向きではない、オトナ向けの童話なのですから。

そんなハラハラを感じているからこそ、早く先を読みたいけど、慎重に、ゆっくりと読んでしまっているのでしょうね? わたしは。


以下、ネタバレありです。未読の方はご注意を


あれだけ失踪事件が起こっていれば、大騒ぎになるような気がしないでもない。

あんなところであんなものを何回も燃やしてたら、かなりまずいような気もしないでもない。

なんでこんなにツッコミどころ満載なのに、面白いんでしょうねぇ?

 

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