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QED 百人一首の呪 (高田崇史)

書籍情報

著者 : 高田崇史
発行元 : 講談社
新書本発行 : 1998.12
文庫版発行 : 2002.10

* タイトル中「呪」は「しゅ」と読む
漢方薬店勤務の薬剤師、桑原崇(くわばら たかし)と、薬局勤務の薬剤師、棚旗奈々(たなはた なな)のコンビが、現在の事件とそれにつながる歴史、古典などの謎を解く、QEDシリーズ第1作にして、高田先生のデビュー作。

第9回メフィスト賞受賞作。

こんな人にお薦め

  • 古文の成績がよかったあなた
  • 歴史ミステリが好きなあなた
  • パズルっぽい謎解きな好きなあなた

あらすじ

文庫本裏表紙より引用

百人一首カルタのコレクターとして有名な、会社社長・真榊大陸が自宅で惨殺された。一枚の札を握りしめて……。関係者は皆アリバイがあり、事件は一見、不可能犯罪かと思われた。だが、博覧強記の薬剤師・桑原崇が百人一首に仕掛けられた謎を解いたとき、戦慄の真相が明らかに!?

第9回メフィスト賞受賞作。

 

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書評

歴史ミステリと本格ミステリの(ちょっとだけの)融合!

正直に言いましょう。
なかなか食指が動きませんでした。
いろんなところで、耳にした噂がその原因です。

「百人一首の謎解きと事件の謎解きが関連していない」
「あれは推理小説じゃない」
そして
「古文が多くて疲れる」
などなど……。

で、実際に以前本屋さんでぱらっとページをめくってみたところ、至る所に短歌、短歌……。こらアカンと思い、しばらくスルーしておりました。

そんな私が今回この本を読むに至ったのは……をお話しする前に、もう一度内容のおさらいを。

この本は、桑原崇(通称 タタル)と、棚旗奈々の薬剤師コンビが、百人一首で彩られた屋敷で起きた二件の殺人事件――悪名高い実業家、真榊大陸(まさかき だいろく)と、その娘玉美の殺人事件――の謎を解くというものです。
当然のごとく、不可解な状況で、大陸の手には一枚の百人一首の札が握られていたという、ミステリマニアには垂涎もののシチュエーションです……が、この百人一首が曲者で、タタルの友人のジャーナリスト、小松崎から相談を受けたタタルは、ひたすら百人一首の謎解きに没頭してしまうのです。

というわけで、噂に違わず物語は百人一首の謎解きに終始する物語なのですが、ワタシはこの本の前に、高田先生の「千葉千波の事件日記」シリーズを読み、それがまた面白かったものですから、思い切ってQEDシリーズにも挑戦してみようと思ったのです。
「千葉千波」シリーズもミステリとしては王道から外れまくった「パズル小説」でした。そして、それをすんなり受け入れることが出来たことから、QEDシリーズもパズルの代わりに「歴史の謎」がふんだんに盛り込まれている、という類のものかな? と簡単に思い込んで、読み始めたのです。

結論を言うと、私のその推測は外れていました。
というより、私の推測の斜め上を更に突き抜けた感じです。

「千葉千波」シリーズは、本編に関係ないパズルは数多くちりばめられていて、なおかつ「パズル」という一種無機質的なものを、人間が動く物語にはめ込んだために、非常に特徴的なものになっていたのですが、謎解きの部分にパズルを絡めたからには、物語の謎解きと、パズルの謎解きは融合していたのです。
ところが、本作は、殺人事件の謎解きと、百人一首の謎解きは、ほんの申し訳程度に重なっているに過ぎません。「集合」の図(ベン図)の殺人事件の円と百人一首の円、二つの円がほんの少し重なっているという感じでしょうか。

通常、このような歴史の謎(もしくは過去の事件)に絡んだ謎解きは、いかにそれと現在の事件が、意外な形で、しかも事件の核心に深くつながっているかというところに力点が置かれるように思われます。しかし、この作品では、下手をすると、百人一首の謎解きがなくとも、犯人、犯行方法にとどまらず、動機の解明まで出来てしまいます。すなわち「事件解決」という観点で見れば、百人一首は不要なのです。

そうなると、通常ミステリとしては駄作と言われても仕方がありませんが、なぜそうならなかったのか?

西澤保彦先生による解説にも似たことが書かれていますが、徹底的に百人一首の謎解きに重心を置いたからに他ならないと思います。
中途半端に、本格ミステリであることを意識して、百人一首の謎のウエイトを変に軽くしてしまったのでは、これほどのインパクトを読者に与えることはなかったでしょう。
そもそも、肝心の殺人事件自体は、これも巻末に北村薫先生が書かれている通り、長編を支えうる物ではないと、素人の私でも思うのですから。

つまるところ、百人一首の謎は殺人事件を構成するあらゆる要素(犯人、動機、手段、トリック、被害者、過去の事実、隠されていた事実、等々)のうち、ほんの一部分、しかも前述の通り、事件解決自体には直接関係ないような要素の解明に資する物でしかないのですが、その一点に限っては、百人一首の謎と、殺人事件の謎はこれ以上ないくらい有機的に結合しており、その結合は、ひたすら緻密になされた百人一首の謎の解明があって初めて、物語の屋台骨を支えうるほどに強力に、魅力的に読者にその存在を誇示できるものとなっています。

ただ、あくまでも普通の「推理小説」を期待していた場合、とりあえず肩透かしな感じを受ける方も多いでしょう。この作品を好きになるには、読む側も既存のミステリの枠を突き抜ける必要がありそうです。

あと、古文を見ると意識が遠くなるという人には、残念ながらお勧めは出来ませんが、古文はわからないけれど、古典的世界が嫌いではない、というレベルの人なら何とか楽しめると思います。
作中に出てくる短歌の洪水は、たいがい読み飛ばしてしまうことになるでしょうが、意味もわからないのに、無理に一首一首読んでいこうと思っても無理ですし、そんなことをしなくても、ある程度謎の骨格は理解できると思いますので。

私の場合は、読後、百人一首の入門本でも読みたくなりましたので、またいずれ、百人一首の基本くらい押さえた上で再読したいと思っております。

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