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ルピナス探偵団の当惑 (津原泰水)
書籍情報
著者 : 津原泰水
単行本発行元 : 原書房
単行本発行 : 2004.3
文庫版発行元 : 東京創元社
文庫版発行 : 2007.6
私立ルピナス学園高等部に通う吾魚彩子(あうお さいこ)と仲間達が、不条理な謎を解き明かす短編集。
津原先生が「津原やすみ」名義で少女小説家として活躍されていた1994~1995年にかけて出版された少女小説「うふふルピナス探偵団」「ようこそ雪の館へ」(本書の第1話、第2話に相当)を全面改稿し、更に書き下ろされた第3話「大女優の右手」を加えて、一般向け本格推理小説として出版されたものです。
収録作品
- 第一話 冷えたピザはいかが
- 第二話 ようこそ雪の館へ
- 第三話 大女優の右手
こんな人にお薦め
- 青春小説っぽいのが好きなあなた
- 笑いたいあなた
- でもどこか冷徹な世界観を堪能したいあなた
- ライト感覚なミステリが読みたいあなた
あらすじ
以下 文庫版裏表紙より引用
-
私立ルピナス学園高等部に通う吾魚彩子は、あるときうっかり密室の謎を解いたばかりに、刑事の姉から殺人事件の推理を強要される。
なぜ殺人者は犯行後冷えたピザを食べたのか?
その後も飄々たる博識の少年・祀島(しじま)らと、青薔薇のある雪の館の密室殺人、死んだ大女優の右手消失事件に遭遇する。不合理な謎が論理的解決を経て、鮮烈な幕切れをもたらす本格ミステリ三編を収録。
書評
ミステリとしては弱いが、笑いの中にも雰囲気のある青春小説
これが初めての津原作品のわたしです。
本屋で偶然見つけ、気軽に読めそうな短編集だし、東京創元社だから間違いないだろうと、何気なく手に取ったこの本ですが……楽しめました。
彩子の姉、不二子さん。
壊れてます。
彩子が書いたラブレターを××した内容は、もはや正常な人間によるものとは思われません。読み返す度に笑っています。
そんな暴君(不二子さん)に振り回されながらも、化石マニアの祀島君に憧れ続ける彩子ですが、そんな彼女の姿さえ、彼女の友人のキリエ、摩耶達との掛け合いの中では完全にいじられ役として笑いを誘ってしまいます。
キャラ設定的には、元が少女小説だけあってそれほど凝ったものではありません。
いわゆる普通っぽい少女の彩子と、行動力があってカッコイイ、女子にもてるタイプのキリエ、美人でお嬢様で可憐に見えるが実は男を振り回すタイプの摩耶。そして暴君な姉に、彩子よりも後ろの大理石に潜む化石に魅せられる祀島くん。物語的には良くありそうな感じです。
ところが、その「普通の」彼女たちの会話は実に活き活きしています。素直に楽しめます。
ただし、ミステリとしてはちょっと完成度は低いような気がします。
とはいえ、実際に第一話、第二話が書かれたのが1994~1995年ということ、当時少女小説として出版された物語であることを考えれば、ちょうど良いとも思えます。
あんまり科学捜査がどうだとかリアルなことを考えずに読む方がよいのかもしれません。
また、第三話に関してはさすがに新しく書き下ろされたものらしく、近年怪奇小説家、幻想小説家として腕を磨かれている津原先生らしい重厚な雰囲気漂う異質なものになっています。
犯行方法はやはり多少の無理を感じましたが、人間が心の中に併せ持つ熱さと冷たさが淡々と描かれていて、ミステリとしてよりは「物語」として読み応えがありました。
それにしても、さんざん笑いながら読み切ったにも関わらず、なぜか薄ら寒いものを感じます。
それは「ルピナス探偵団」というひとつの魅力のある世界を築き上げながら、同時に壊してゆくような、そんな冷徹な空気を感じるからかもしれません。
詳しいことは書きませんが。
でも、それは、もしかして普通の、当たり前の現実世界の姿なのかもしれません。
だからこそ、薄ら寒く感じるのでしょう。
そして、彩子達が前を向いて生きている姿に共感できるのでしょう。
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