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クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (西尾維新)
書籍情報
著者 : 西尾維新
発行元 : 講談社
新書版発行 : 2002.2 講談社ノベルス
文庫版発行 : 2008.4 講談社文庫
西尾維新先生のデビュー作で、第23回メフィスト賞受賞作。
戯言遣いの「ぼく」を中心として展開する「戯言シリーズ」の第一作でもある。
萌えとミステリーの融和を目指して書かれた物語は、竹先生の鮮美な色彩のイラストと渾然とした鮮烈な印象を持つ。
こんな人にお薦め
- 深い萌えセカイを徘徊したいあなた
- ひと味違う。それでもあくまでも本格ミステリな本をお望みのあなた
- 「うにー」「あうー」とか「僕様ちゃん」(一人称)なんて台詞回しを受け入れられるあなた
あらすじ
文庫版カバーそでより引用
-
自分ではない他人を愛するというのは一種の才能だ。
他のあらゆる才能と同様、なければそれまでの話だし、たとえあっても使わなければ話にならない。
嘘や偽り、そういった言葉の示す意味が皆目見当つかないほどの誠実な正直者、つまりこのぼくは、4月、友人の玖渚友に付き添う形で、財閥令嬢が住まう絶海の孤島を訪れた。
けれど、あろうことかその島に招かれていたのは、ぼくなど足下どころか靴の裏にさえ及ばないほど、それぞれの専門分野に突出した天才ばかりで、ぼくはそして、やがて起きた殺人事件を通じ、才能なる概念の重量を思い知ることになる。
まあ、これも言ってみただけの戯言なんだけれど――
書評
偏狭で深遠で極端で滑稽な極彩色の
このユカイなセカイ
本屋さんの小説コーナー。
視界の端にはいつも西尾維新。
ずいぶん長いこと手には取りませんでした。
ヲタクではあるワタシですが、ミステリに関しては正当派の本格ものが好き、ということがありまして、どう考えても正当派の本格ミステリには見えないあのイラストに、惹かれながらも尻込みしていたのです。
で、ようやく読み始めましたのは、メフィスト賞受賞作のこの作品。
購入してから読む前にWEB上で調べてみると、この作品を皮切りに始まる「戯言シリーズ」は、ライトノベルに分類されていたりする場合もあり、また、シリーズが進むに従ってミステリ色がなくなっていくともあったりしまして、読み始めるまでにも少々時間がかかっていたのは内緒です。
それでも読んでみました。
結果。
ライトノベルって何なんでしょう?
まあ、中高生向けで、アニメっぽい設定で、イラスト重視?
大まかそんな感じかな? と思うのですが、もうひとつ。
いかにも内容が薄っぺらな印象がある言葉ですよね。
ライトノベルって。
実際ワタシは一度、あの角川スニーカー文庫から出版されていた「らき☆すた殺人事件」でひどい目に遭っていたので、なおさらそういうイメージがありました。
かの本はアニメっぽいというか、モロそうなんですが、それにしても一応推理小説の体裁を為しているものと無理矢理信じ込んで、恥ずかしさをぐっとこらえて、スーツ姿で若い女性店員さんに「これください」と言ったあの日のことと、数日後無言でその本を封印してしまった、あの記憶は一生忘れません。
とまあ、それ以来ライトノベルと聞くと「子ども向け」というイメージでとらえていたワタシがいるわけです。
そこに降臨したのが西尾維新先生であるわけで。
今回、実際読んでみて、ワタシが持つライトノベル像を「ほとんど」備えている作品でした。
そう。
ほとんどの点において、この作品は見事にライトノベルでした。
可愛らしくも切れ味鋭く、鮮やかな色使いの竹先生のイラストがよく似合う、極彩色なキャラクターとその世界。(三つ子メイドもいるよ!)
金持ちも、天才もやたら極端な設定なところなんかは非常に漫画的で、この辺が「オトナ」な読者からすると幼稚に見える部分でしょうし、ワタシもはじめは「ちょっとこれは……」と感じました。
台詞回しも若者的な崩れた感じで、なんといっても登場人物のほとんどが若くて美しい女性。
世界的な金持ちやら天才やらが集まっているはずなのに、この設定って……どんなギャルゲだっ! て感じです。
でも、その狭くて極端で滑稽なその世界は、とても楽しくて、深い。
「ライト」じゃない。
あえて言うなら、西尾先生がノーマルなミステリを書くことはできても、多くの「リアル指向の」ミステリ作家にはこのような新たな世界を魅力的に描くことはできないのではないでしょうか?(もちろん全員のことをいっているわけではありませんよ)
無邪気でものぐさで引き籠もりで、そして天才の玖渚友(くなぎさ とも)と、傍観者で諦観者で、ただの付添人の「ぼく」の奇妙に無敵な信頼関係。
全てを見通しつつも悲劇を傍観する予言者、姫菜真姫(ひめな まき)が極悪非道に「ぼく」を嫌い、いたぶり続けるのはなぜ?
玖渚友と「ぼく」の関係に似ているような、似ていないような天才画家、伊吹かなみと介添人逆木深夜(さかき しんや)の関係。
赤神財団の直系血族にして今回の舞台となる孤島の屋敷の主、赤神イリヤと付き従う三つ子メイドの結びつきの源は?
これだけ荒唐無稽な世界設定と人物設定の中にあって、見事なまでに人同士の内面的なつながりの存在を描き出している作品はやはり希有なもので、さすがメフィスト賞受賞作、と言えるでしょう。
やっぱり、ライトノベルって呼び方変えた方がいいんじゃないでしょうか?
いや、実際に「ライト」な作品も多い現状(← まだ「らき☆すた殺人事件」でしてやられたことを根に持っている)を考えると、ライトノベルという呼び方を変えるのではなく、この作品をライトノベルと評することをやめた方がいいのでしょうか?
と、まあ、ライトノベル談義はこの辺にいたしまして、ミステリとしてはどうなのでしょう?
これがまた、なかなか極上。
タイトルそのままに首切り殺人が起こるのですが、現場は(広義の)密室。
そしてアリバイによって極端に狭められる容疑者。
さらに動機の謎。
よくもまあ、このへんてこりんな世界の中に、これだけ王道的なミステリを融和させたものです。
そこに名探偵役なのかワトスン役なのか、もひとつはっきりしない「ぼく」による事件解決と、人類史上最強の請負人による世界の反転。
見事に本格ミステリでしたよ。
本格ミステリファンでこの作品を読んでいないのは、やはりもったいないというべきでしょう。
好き嫌いははっきり現れそうですが、それでも読んでおいて損のない一冊だと思います。
まあ、ミステリ好きとしては、このシリーズがだんだんミステリ色希薄になっていくらしいことが残念ではあります。
でも、もしかしたら、そんなことも気にならずにシリーズを読み切ってしまいそうな、そんな魅力がある奇妙奇天烈なセカイをぜひ一度体験してみてはいかがでしょうか?
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