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黒猫の三角 Delta in the Darkness (森博嗣)
書籍情報
著者 : 森博嗣
発行元 : 講談社
単行本発行 : 1999.5 講談社ノベルス
文庫版発行 : 2002.7 講談社文庫
犀川&萌絵のS&Mシリーズに続く、瀬在丸紅子・保呂草潤平・小鳥遊練無・香具山紫子の4人組が事件に挑むVシリーズ第1作。
こんな人にお薦め
- どんでん返しを愛するあなた
- S&Mシリーズをすでに読んだあなた
- 世の中の道理に疑問を持っているあなた
あらすじ
以下文庫版裏表紙より引用
-
1年に一度決まったルールの元で起こる殺人。
今年のターゲットなのか、6月6日、44歳になる小田原静子に脅迫めいた手紙が届いた。
探偵・保呂草は依頼を受け「阿漕荘」に住む面々と桜鳴六画邸(おうめいろっかくてい)を監視するが、衆人環視の密室で静子は殺されてしまう。
森博嗣の新境地を拓くVシリーズ第1作、待望の文庫化。
書評
どんでん返しのお手本です。
西之園萌絵、犀川創平のS&Mシリーズに続く、新シリーズ「Vシリーズ」の開幕です。
冒頭からわざわざ記述について三人称視点にするということを宣言し、いかにも何かあるな、と思わせる始まり方の本作。
詳しいことは省きますが、やはり何かあるわけです。
シリーズものだからこそ、しかも前シリーズがあって、読者が次のシリーズとして期待しているところにもってくることで最大限の効果を上げる本作のメイントリック……流石です。
やられた! と思うと同時に、次回作以降への期待感をいやがおうにも盛り上げてくれること請け合いです。
さて、このシリーズは没落した高貴な家柄である瀬在丸家の令嬢、瀬在丸紅子(せざいまる べにこ)、うさんくさい探偵、保呂草潤平(ほろくさ じゅんぺい)、女装癖があるけど少林寺拳法の腕前はなかなかの小鳥遊練無(たかなし ねりな、通称・れんちゃん)と長身で一見がさつな感じの関西弁女子大生、香具山紫子(かぐやま むらさきこ、通称・しこさん/しこちゃん)を中心メンバーとして展開されることになりますが、なんだかんだいっても天才肌の紅子と保呂草のコンビだけでは、やはり犀川&萌絵コンビを彷彿とさせすぎです。
特に紅子さんは、没落しているとは言え、そしてすでに30才手前でバツイチ子持ちだとは言え、生まれついてのお嬢様のようですし、なんと言っても今回も「執事」付き、ですからね。
ですから主役級として、れんちゃん、しこさんのコンビをもってきたこと、そしてこのふたりのキャラが非常に立っていることが、Vシリーズにとってはとても重要なことだと思います。
特に、個人的にはしこさんがとってもいいですね~。
見た目は長身で、ショートカット。
言葉遣いは関西弁丸出しで、ちょっとかっこいい年上男性を見るとすぐに熱を上げ、食欲旺盛、酒癖悪しのいわゆる三枚目キャラ。
なのに、その実体は、森作品の中心キャラとしては意外なくらい普通のか弱い女性なんですよね。
一種の超人、変人が集う森ワールドにおいて、良い清涼剤的存在であるように思います。
それにしても、れんちゃんには女装が似合う今のうちに、その手の趣味を卒業していただきたいものです。
次にミステリ要素ですが、やはりというか、密室殺人。
大勢のパーティ参加者の目にさらされていたドアと保呂草たちが見張っていた建物の外側の窓以外の出入りが不可能な部屋で行われた殺人。
しかもそれは過去に起こったぞろ目の日にぞろ目の年齢の人間が殺されるという、ぞろ目連続殺人の続きと思われる、というおまけ付き。
途中で第二の殺人が起こり、しこさんも犯人に襲われるというアクセントがあるものの、謎解きとしてはもう一つこれという案も出てこないままで、過去の事件と今回の事件の共通点も少しずつ出てくるもののどうも決め手に欠く……という状況のまま後半まで続いてしまいます。
頼みの紅子さんもたいした仮説を披露するわけでもなく、なんだか西之園萌絵嬢よりも切れ味悪いな~といった感じで、この事件うまく収まるのかな? と半信半疑のまま……だったのですが。
まさにどんでん返し。
一気にひっくり返されてしまいました。
印象的に、でも違和感たっぷりに発せられた、保呂草さんや紅子さんの台詞の真の意味も一気に整合性を持つことになる、見事なひっくりかえりっぷりです。
まさしくすべての情景描写、台詞の一つ一つの意味合いが完全に裏返ってしまう「どんでん返し」の名前にふさわしい切れ味でした。
もちろん、上述の紅子さんの切れ味の悪さにまできっちり説明を付けてくれたりもいたします。
もっとも、その犯行方法自体はちょっと無理がありそうな気もするのですが、そんなことが気にならないくらいの見事さです。
実際のところわたしは再読でこの書評を書いていますが、改めて読んでもその見事さに胸がすく思いです。
他にもシリーズを通してのいろんな伏線が散らばった本作。
しっかりと読みましょうね!
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