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今はもうない SWITCH BACK (森博嗣)

書籍情報

著者 : 森博嗣
発行元 : 講談社
新書版発行 : 1998.4
文庫版発行 : 2001.3

犀川助教授と西之園萌絵のコンビが活躍するS&Mシリーズの第9弾。

総じてなかなか評判がよいものの、シリーズ中「この本から読んではいけない」というご忠告が多い一冊。

こんな人にお薦め

  • 前作までもう読んだあなた
  • 西之園萌絵嬢と犀川先生の恋の行方が気になって仕方がないあなた
  • ちょっとずるい方法でも騙されるとやっぱり喜んでしまうあなた

あらすじ

以下文庫版裏表紙より引用

避暑地にある別荘で、美人姉妹が隣り合わせた部屋で一人ずつ死体となって発見された。

二つの部屋は、映写室と鑑賞室で、いずれも密室状態。遺体が発見されたときスクリーンには、まだ映画が……。
おりしも嵐が襲い、電話さえ通じなくなる。

S&Mシリーズナンバーワンに挙げる声も多い清冽な森ミステリィ。

 

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書評

一発勝負。

いろんなところで言われていることですが、お願いですからこれまでのS&Mシリーズ作品を読まずにこの本から入るのはやめてください。

とりあえず読んでおいて、またほかのシリーズ読んでから再読すればいい……なんて思わないように!!

一発勝負なネタが仕込まれています!!

なんというかネタバレにならないようにかな~り遠回しに申しますが、この作品には、ミステリには良くある仕掛けが施されているのですが、これがシリーズ未読者にとってはなんの意味も持たないという恐るべき仕様なのです。

まあ、個人的にはこの仕掛けには色々言いたいこともあるのですが、ここで言うわけにもいきませんので、その一端は下のネタバレコーナーで。
今回は未読者の方は、ホントにネタバレコーナーは読まないでね。

まじで作品の価値の8割方なくなっちゃいますので!!

なんだか赤文字だらけの文章ですが。

決して駄作だというわけではありません。

少なくとも今までのシリーズ作品をご覧になった方なら堪能はできると思います。
ただし、いい意味でハラハラドキドキできる人もいれば、なんだか一種の気持ち悪さを抱えたままで最後の方まで行ってしまう人もいらっしゃるような気がします。

ミステリとしては、森先生お得意の密室殺人ものです。
いずれも隣り合った二つの部屋で、美人姉妹が一人ずつ死んでいるというもので、当然それぞれは密室なのですが、その二つの部屋は映写室と鑑賞質という関係上、小さな窓でなんとか行き来が可能になっているという、いい感じの古典的密室です。

そして、今回は物語構成自体がちょっと今までと違う趣向になっておりまして、犀川先生と西之園嬢の掛け合いは、事件本体の記述の合間にちょこっと挟まれるだけで、事件本体の記述は事件の舞台である別荘地で、偶然西之園嬢と出会った笹木氏の一人称視点で語られます。

この笹木氏ですが、西之園嬢の魅力と明晰さに驚きながら、地道に推理を重ね、これまた地道に、ほかの関係者が語った事件の推論についても検証してくれるので、ミステリファンとしてはすぐ思いつくような密室の謎を順番にきっちりつぶしていってくれます。
このあたりは、事件自体が連続殺人とかのような、あまりど派手な展開ではありませんので、その分丁寧な考察をしているという感じがあって好印象です。

しかし、この当初いかにも朴念仁風であった笹木氏ですが、だんだん調子に乗ってきやがります。
西之園嬢に対して色々不埒な真似をしてくれます。
そして、あろうことかプロポーズまで!!

もうね。
西之園嬢ファンにとっては、事件の解決なんてどうでも良くなっている頃かもしれません。

でも、だからといって、事件の解決自体がホントにどうでもいいような感じだったのは残念です。
あれだけ笹木氏がいろんな推論を私たちの前に整理して見せてくれたのに、あのトリックじゃあちょっとあんまりな感じです。

ああ……。

これ以上書くとどうしても核心に触れてしまいそうですので、ここまでにしておきます。


以下、ネタバレありです。未読の方はご注意を


(ネタバレコーナーではありますが、一応多少ぼかしてありますのでわかりにくいと思います。ご了承くだされ)

ちょっとアレはどうですかね~。

当初からなんだかそんな気はしていたのに、森先生がくどいようにそれを隠す記述をされるものですから、やっぱ違うのかな? と思いながらラストにつくと、やっぱりそうだったんじゃないか! という感じで、「騙された」というより「無理矢理信じさせられた」感が強く,あんまり爽快ではありませんでした。

もちろん、その森先生の記述に騙されたといえばそうなのですが、わたしがそれをあまりよく思わないのは、事件中の西之園嬢についての描写は、性格やらなんやらホントに西之園嬢そのままな感じで、騙すためとはいえ、そりゃあまりに漫画的な……と思わざるを得ないからです。

そして、やはりこの仕掛けが占める比重が重すぎて、肝心のミステリとしての骨格が中途半端に感じてしまいました。
再読すると良くおわかりいただけるかもしれません。
この仕掛けは、まさに一発勝負ですので、再読時にはその辺は適当に流してしまうことになるわけですが、そうすると事件の方がえらくちゃちに見えてしまうのです。

結局、S&Mシリーズ全体を一つの物語として捉えたときの、外伝的物語だったと思えば、それなりに効果的ではあると思うのですが、単体としてはどうかなぁ、と思ってしまうのでした。

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