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有限と微小のパン THE PERFECT OUTSIDER (森博嗣)

書籍情報

著者 : 森博嗣
発行元 : 講談社
単行本発行 : 1998.10
文庫版発行 : 2001.11

犀川助教授と西之園萌絵のコンビが活躍するS&Mシリーズ第10弾にして完結編。

シリーズ第一作「すべてがFになる」で登場した真賀田四季が再登場して物語の中心となる。
そして世界観の繋がる瀬在丸紅子達が活躍するVシリーズへと続くターニングポイント的な作品。

こんな人にお薦め

  • どんでん返しは大きなほど素晴らしいと考えるあなた
  • ヴァーチャルリアリティというキーワードに反応するあなた
  • 天才に憧れちゃうあなた

あらすじ

以下文庫版裏表紙より引用

日本最大のソフトメーカが経営するテーマパークを訪れた西之園萌絵と友人・牧野洋子、反町愛。
パークでは過去に「シードラゴン事件」と呼ばれる死体消失事件があったという。

萌絵たちを待ち受ける新たな事件、そして謎。核心に存在する、偉大な知性の正体は……。

S&Mシリーズの金字塔となる傑作長編。

 

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書評

INSIDER・OUTSIDER

S&Mシリーズの完結編ということで、さすがに読み応えありました。
分量的にも……。

前作「数奇にして模型」では森先生の本格ミステリ書きとしての集大成的な感想を抱きましたが、今回は犀川先生と西之園萌絵嬢の物語の集大成であると感じました。

そして、このふたりの物語を一旦締めくくるには欠かせないこの人――真賀田四季博士が冒頭から登場してくるのですから、もう目が離せません。

もちろんミステリ要素も充実はしているのです。
西之園嬢の(親同士が決めた)婚約者にして、塙理生哉(はなわりきや)。

塙理生哉が経営する日本最大のソフトメーカー「ナノクラフト」
ナノクラフトが経営する古いヨーロッパの町並みが再現された長崎にあるテーマパーク「ユーロパーク」

その、ユーロパークで過去に起きた死体消失事件を前菜に、西之園嬢達が遭遇した殺人事件と死体消失が語られます。
教会風の建物の中で彼女たちが死体を発見したのもつかの間、少し目を話した隙に死体は消失――ただし腕一本を残して。

さらに敷地内のホテルの一室で起こる、第二の殺人と犯人の消失。
バーチャルリアリティの空間の中、西之園嬢の目の前で起こった第三の殺人と犯人の消失。

これら、森先生お得意の広義の密室殺人が繰り広げられるところに、ナノクラフトがかくまう真賀田四季の存在が絡みつき、さらにはナノクラフトが制作したRPG「クライテリオン」に託された暗号も雰囲気を盛り上げます。

それらシリーズ最終作にふさわしい大事件に隠されたトリックもまた、大技を駆使したどんでん返しでもって読者を満足させてくれるでしょう。
正直なところ、現実的ではないと言えなくもないのですが、真賀田四季の存在によって、現実と仮想現実の境界があいまいになってしまったかのような空気が読者を包み込んでいるため、空気を味わうことなく批評家気分で読むという、もったいない読み方をしない限り、それほど気にならないのではないかと思います。

というわけで、ミステリとして充分に楽しめる本作ですが、それでもやはり真賀田四季が出てくると、否応なしに物語全体が真賀田四季の物語になってしまいます。

ただし今回ははじめから、真賀田四季が犯人なのか? という部分が前面に出てきているので当然と言えば当然なのです。

しかしそういう意味ではなく、社会的に天才プログラマとして名高い塙理生哉、コンピューター的な高速回転の思考回路を持つ西之園嬢、そして彼女とは明らかに違うタイプの天才である犀川先生との絡みを通して描かれる絶対的な天才としての真賀田四季の存在自体がもっとも大きなミステリィとして描かれているのです。

普通の人間としての人物描写がそれほど詳細に描かれているわけでもないのに、彼女の頭脳の中にある世界はすでに現実世界を浸食しはじめているのではないかと思わせるほどの広がりをもって読者の前に展開されます。

第一作「すべてがFになる」では「天才」とその内面にある一般人にうかがい知ることのできない世界を描くことにスポットライトが当たっていましたが、本作ではその天才が持つ内面世界だけではなく、その世界が外部に干渉し、これこそ現実だと一般人が思っている世界と溶け合うさまが見事に描かれていたと思います。

その雰囲気が、VR(ヴァーチャルリアリティ)を大きなテーマとするこの物語と見事に融合して、本格ミステリ好きのわたしに、真犯人が誰かということよりも「何が現実で、何がヴァーチャルなのか」ということを、より考えさせてしまったのです。

そして、読み終えたとき感じたのは「すべてがFになる」で付けられた副題「THE PERFECT INSIDER」に対して本作に付けられた「THE PERFECT OUTSIDER」は、天才がそのうち側に持つ完璧な世界が、外界をも浸食し、しかもそれを完全に客観的に眺められる、ある種究極の第三者である真賀田四季を主題にもってきた本作のサブタイトルとして、非常に素晴らしいということでした。

まあ、シリーズ最終作ということで、犀川&萌絵のラブロマンスの大いなる進展を期待されていた方にはちょっと肩透かしかも知れませんが、正直、真賀田四季が前面に出てきたところにこっちの要素まで掘り下げようとすると、どう考えても収拾がつかなさそうなので、仕方ないなぁと思うしかないようです。
それにしても、シリーズが続いてきた中、国枝先生、よくぞここまでおいしすぎるキャラクターに成長したものです。
これで外見が可愛かったりしたら、すご~く人気が出るように思いますw
このまま美少女ゲームのヒロインのひとりにでもしたら、間違いなく「制作者はサブキャラのつもりで創ったのに、キャラ人気投票ではダントツトップ」的なキャラになりそうです。

最後に。

次は瀬在丸紅子さんのVシリーズです。
わたしは森先生の作品について、この書評を書くのはすべて再読時なのですが、VシリーズもS&Mシリーズと色々繋がったシリーズなので、Vシリーズを読んでからもう一度S&Mシリーズに戻って読み返すと、また面白いですよ~


以下、ネタバレありです。未読の方はご注意を


RPGクライテリオン。

どんな面白いゲームか知らないけれど……。

あんなラストはない!
ないったらない!!

塙社長、真賀田四季に社運かけ過ぎです。

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