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数奇にして模型 NUMERICAL MODELS (森博嗣)
書籍情報
著者 : 森博嗣
発行元 : 講談社
単行本発行 : 1998.7
文庫版発行 : 2001.7
犀川助教授と西之園萌絵のコンビが活躍するS&Mシリーズ第9弾。
犀川の同級生、大御坊安朋と喜多北斗もふんだんに活躍する作品。
こんな人にお薦め
- 謎のバランスがとれたミステリが好きなあなた
- なんだかオタクっぽい雰囲気を味わいたいあなた
- 大御坊ファンなあなた?
あらすじ
以下文庫版裏表紙より引用
-
模型交換会会場の公会堂でモデル女性の死体が発見された。
死体の首は切断されており、発見された部屋は密室状態。
同じ密室内で昏倒していた大学院生・寺林高司に嫌疑がかけられたが、彼は同じ頃にM工業大で起こった女子大学院生密室殺人の容疑者でもあった。複雑に絡まった謎に犀川・西之園師弟が挑む。
書評
大御坊と書いて「だいごぼう」と読む
今までのシリーズでも登場していた犀川の同級生、喜多先生寡黙で変人な犀川先生の、良い意味で対照的な存在感のある人物です。
が、本作に登場する「大御坊安朋」は、喜多先生を遙かに上回る存在感――しかし対照的ではなく、異次元的。
ひと言で言えば、おカマ。
ゲイではなく、おカマ。
最近のニューハーフ的なものではなく、一昔前のストッキングの下にはすね毛が透けて見えるようなタイプのおカマ。
でも、実際におカマなのかはわからない……というか装いや言葉遣いは普通に読めばおカマさんなのだが、男色趣味があるのかはわからない。
作中に、背格好はいたって平均的とありますが、全体を読んでわたしの中に作られたイメージは「ごっついおカマ」であります。
この物語は、そんな作家、クリエーターにして、模型マニアである大御坊が参加している模型マニアの交流会(同人イベントのようなイメージ)会場から始まります。
夜間、会場の中の、鍵で閉ざされた部屋で見つかった筒見明日香の死体と、そのそばで気を失って倒れていた寺林高司。
さらに寺林が通う近くの大学の研究室では、同じ頃寺林と会う約束をしていた上倉裕子の死体も発見されたという感じです。
しかも地の文には挑発的に「筒見明日香を殺したのは寺林ではない」ときたもんです。
なんだかとっても王道的なミステリといった感じです。
とはいえ、森先生の作品は、読み終わってみるとストレートなミステリではなかったというパターンが多いので、そういう意味ではあまり期待せずに読み進めました。
が、結論を言ってしまうと、今回は正味本格ミステリとして楽しめました。
続いて起こる第三の事件も合わせて考えると、密室の謎、アリバイ崩し、殺害方法の謎、そしてもちろん犯人が誰で、動機がなんなのか?
実にたくさんの本格ミステリ的要素が入り交じり、しかもそれぞれの要素が互いの謎を解くキーになっている、見事な展開です。
特に、すべての謎に動機というものが密接にからんでいるのですが、そのからませ方が絶妙です。
いろんな謎が徐々に明かされ、犯人もまだけっこうなページ数を残した状態で明らかになります。
無論動機はわからなくても一応それが正解だとはわかる状態です。
にもかかわらず、すべてにおいて色々しっくり来ない状況が残っているのですが、最後に解明された動機の謎によって綺麗にまとまります。
その動機は、ちょっと現実的ではないような気もしますが、森先生の機能的なのに詩的な文章で書かれると、妙にすんなり受け入れられるので困ります。
また、その特殊な動機も、単純に「最後にいきなり大暴露」というのではなく、序盤から、見事な伏線兼ミスリードという形で読者の前に姿を見せています。
ミステリ好きの読者なら、なんで気付かなかったんだ!? とうめいてしまいそうなくらい、さりげなくも、堂々と書かれている、絶妙のバランスです。
そんなわけで、今回は西之園嬢も相変わらず無謀ですし、犀川先生も、らしくない大活劇をやらかしたりと、シリーズとしてのお楽しみも多くあるのですが、それ以上に素直にミステリとして楽しんで読了してしまった作品でありました。
それにしても筒見明日香の兄、筒見紀世都さん。
美しくなかったら、あなた、ただの変態かも知れません。
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