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封印再度 WHO INSIDE (森博嗣)

書籍情報

著者 : 森博嗣
発行元 : 講談社
新書版発行 : 1997.4
文庫版発行 : 2000.3

犀川助教授と西之園萌絵のコンビが活躍するS&Mシリーズの第5弾。
シリーズ前半の締めくくりとも言える作品。

こんな人にお薦め

  • たくさんのミステリ要素が詰まった作品を読みたいあなた
  • 執事さんが密かに好きだったあなた
  • たまには犀川センセイも痛い目を見るべきだと思うあなた

あらすじ

以下 文庫版内容紹介より引用

50年前、日本画家・香山風采(ふうさい)は息子・林水(りんすい)に家宝「天地の瓢(こひょう)」と「無我の匣」を残して密室の中で謎の死をとげた。
不思議な言い伝えのある家宝と風采の死の秘密は、現在にいたるまで誰にも解かれていない。
そして今度は、林水が死体となって発見された。

2つの死と家宝の謎に人気の犀川・西之園コンビが迫る。

 

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書評

犀川先生!あなたはお子様ですか!?

50年前、日本画家の香山風采は、内側から鍵のかけられた部屋で謎の死を遂げる。
密室で胸を刺されて死んでおり、凶器も見つからなかったが、その現場の状況から自殺と判断された。
そして50年後、その息子、林水も死体で発見された。
その二つの死をつなぐのは、家宝である鍵付きの小箱「無我の匣」とその小箱の鍵らしきものが封じられた壺「天地の瓢」の謎だった。

という感じなのですが、前作「詩的私的ジャック」では事件の構造自体はそれほど複雑ではなかったのに対し、今作は50年前の「いかにも」密室ものと言わんばかりの事件と、同じく室内で殺害されたらしいにもかかわらず、戸外で死体が発見された現在の事件の対比。
そして、それをつなぐ現場に残された小箱と壺。
小箱には凶器が隠されている可能性があるように見えるのに、肝心の箱の鍵は壺の中から取り出しようがない状況。
このように凝った設定の上に、今作ではアリバイ、動機も謎解きの核心に絡む構成になっており、非常に読み応えがあります。

本格ミステリの骨格としてこれほど骨太な作品は、森ミステリィの中でも初めてではないでしょうか。(作品の出来の良さという意味ではなく、作品の中に網羅された本格ミステリとしての要素の多様さについての話です)

しかも、その多様な要素が「無我の匣」「天地の瓢」を中心に据えることで、すっきりまとまっています。
数多くの材料が単なるごった煮ではなく、一つの料理として仕上がっているような感じでしょうか。

また、物語としてもS&Mシリーズ前半の締めくくりにふさわしく、登場人物達がよく動きます。
久々に再登場の儀同世津子、やっと「らしく」なってきた鵜飼刑事に、まさかまさかの諏訪野マジック。
そして、ついに登場、萌絵嬢に権力という名のドーピングを施したかのような「女帝」佐々木睦子女史。
彼らの存在が、犀川先生と萌絵嬢、二人の物語を大いに盛り上げてくれます。

ある意味、この作品にいたって本当の意味で主人公達が活きてきたとも感じられます。

それにしても、犀川先生。
前作「詩的私的ジャック」からその片鱗があったのですが。
ちょっとすっとぼけが過ぎますぞw

文庫版73ページから抜粋

萌絵「ねえ、先生、クリスマスは?」
中略
犀川「質問の意味がよくわからないけど

お~い……。
先生がクリスマスに特別な意味を感じていないにしても、わかるでしょ?
ほんとに……好きな女の子にわざとつっけんどんな態度をとる、相手の気持ちをわからない振りをする……そんな子どもがいますよ。

小説でなかったら、嫌われてますよ? センセイ?

まあ、そんなお子様、犀川センセイに、新「S&Mコンビ」がやってくれたので良しとしましょう。
誰かって?
それはもちろん…………。
ね?(答えはネタバレコーナーで)

というわけで、未読の方向け、ネタバレ前の総評を。
今作はミステリィとしても、物語としても、なかなか楽しめました。「なかなか」としたのは、事件の真相の一部にちょっと拍子抜けした感もあったからです。納得できる形には収まっているものの……。

また、いわゆる伏線みたいなものがあったりするのですが、その伏線の張り方はもちろんですが、その伏線の活かし方が絶妙で素晴らしいなぁと思いました。
ラストまで気を抜くな!


以下、ネタバレありです。未読の方はご注意を


新「S&Mコンビ」とは、むろん「諏訪野&萌絵」で決まりですw
まあ、読んだ方には無用の解答でしたね。

また、上記総評で触れました「伏線」とは、マリモさんが見た夢の描写です。
夢の描写と言うことで、細切れの言葉で綴られた一節ですが、わたしは、これが伏線くさいな~と思いながら終盤にいたり「これはビンゴか?」と一人ほくそ笑んでおりましたのです……が、もちろんそれを更に逆手にとられてしまったわけでした。

おれの負けだよ。

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