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ミステリーズ《完全版》 (山口雅也)

書籍情報

著者 : 山口雅也
発行元 : 講談社
単行本発行 : 1994.9
新書版発行 : 1997.9
文庫版発行 : 1998.7

「狂気」「逸脱」をコンセプトに編まれた実験的な短編集。1995年度の「このミステリーがすごい!」の第一位に選ばれた。 なお、「《世界劇場》の鼓動」が入った完全版は新書版、文庫版のみ。

収録作品

  • DISC-1
    1. 密室症候群
    2. 禍なるかな、いま笑う死者よ
    3. いいニュース、悪いニュース
    4. 音のかたち
    5. 解決ドミノ倒し
  • DISC-2
    1. 「あなたが目撃者です」
    2. 「私が犯人だ」
    3. 蒐集の鬼
    4. 《世界劇場》の鼓動
    5. 不在のお茶会

 

こんな人にお薦め

  • アメリカンなブラックユーモアが好きな人
  • 論理的思考よりも狂った世界が書かれている方が好きな

あらすじ

以下、文庫版裏表紙より引用

密室殺人にとりつかれた男の心の闇、一場面に盛り込まれた連続どんでん返し、不思議な公開捜査番組、姿を見せない最後の客。
人気の本格推理作家が明確な意図を持ってみずからの手で精密に組み上げた短編集。謎とトリックと推理の巧みな組み合わせが、人間の深奥にひそむ「ミステリー」を鮮やかに描き出す。

引用終わり

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書評

ミステリというより、ブラックユーモア短編集

なんと言いますか。
ミステリと言うよりも、アメリカンなブラックユーモアの短編集を読んでいる気分でした。
まず、文体がなんというか、日本的でないのです。まあ、登場人物は外人さんなのですが、軽妙な感じがとってもアメリカン。正直言って好みの分かれるところだと思います。

そして内容なのですが、実験的……なのですよね?

メタミステリ的な手法で組み立てた「密室症候群」は、不可思議な感覚は味わえるものの、正直なところそれほど感じるところはありませんでした。

続く「禍なるかな、いま笑う死者よ」は笑う死体の謎が語られるという趣向ですが、やはりミステリと言うよりは、ブラックジョークな感じです。

「いいニュース、悪いニュース」は、見事にだまされました。が、その謎自体よりも伏線の張り方に感心しました。すべてがわかって、初めてタイトルに頷きました。

「音のかたち」は、巻末のLINER NOTEで山口先生が語られている通り、「音響怪談」です。もはや全くもってミステリではないのですが、なかなかの迫力です。

そして前半DISC-1のラストの「解決ドミノ倒し」ですが、探偵役が到達した推理がどんどん崩れては、事件が別の顔を見せるという趣向です。とにかくたくさんのどんでん返しを詰め込んだ、というところに価値があるようで、質より量ですね。
まあ、その量的過多なところが、ブラックユーモアとしては面白いのかもしれませんが、私としてはそれほど楽しいとは思いませんでした。

ここから後半なのですが、最初の「あなたが目撃者です」は、テレビの公開捜査番組を見る夫婦の情景の描写であり、その夫と読者をリンクさせようという試みのようですが、はっきり言ってしまうと失敗のような……。
番組で取り上げられた事件が、些細な矛盾点から鮮やかに解決されるのが救いです。

「私が犯人だ」は、まさに今、殺人現場にいる犯人が、捜査官に自白するも徹底的に無視されるという奇妙な状況ですが、う~~ん。やはりブラックユーモアの域です。

「蒐集の鬼」もレコードについてのマニアックな描写は楽しめましたが、しつこいようですが、やはりブラックユーモアです。短編には最後の数行でのどんでん返しというのはよくある手法ですが、そこに至るまでにミステリ的な要素があまりないので、どうしてもどんでん返しと言うよりは、落語のオチのような感じにしか思えません。

「《世界劇場》の鼓動」は「音のかたち」と同じく、そもそもミステリではありません。紡がれる「音」が異常な世界を形成するという、幻想怪奇的な世界です。物語の出来、不出来以前に、この話をわざわざ「ミステリーズ」に追加して「完全版」とした意図がわかりません。

というわけで、最後の「不在のお茶会」です。四角のテーブルに就いた三人――植物学者、作家、女性の神経科医――は、なぜか自分に現実感がもてず、なぜここにいるのかもわからない。そしてその場を離れることも出来ないという狂った状況の中で、一つだけ空いたままの席にいるべき「不在の客」についての考察を戦わせる、という物語です。
それぞれの考察は、なかなか楽しく読めました。でも、やっぱりオチが……。

ここまで書いてきて気がつきましたが、ちょっと悪く書きすぎですかねぇ。
おそらく、「このミス」一位の作品で、私が非常に楽しく読ませていただいた「日本殺人事件」の作者だということで、ちょっと期待が高すぎたのでしょうか?
とにかく全編にわたって、ミステリというよりはブラックユーモア的なテイストですので、そういうのが駄目な人には合わないでしょう。
ただ、海外のショート・ショートで結構売れているはずの作品なのに、私としてはあんまり楽しめなかった作品群に、香りが似ています。
ということは、おそらくこういう作品をとっても楽しいと感じる人もいらっしゃるということなのでしょう。

それにしても、「実験的」なのかもしれませんが、少なくとも私にはそれほど「実験的」にも見えないところに、作者の「実験的な意図」だけが目立っていて、なんだか空回りに見えてしまいました。
もしかして、単行本が出版されたのが1994年ですから、その当時ならこのくらいで充分実験的だったのかな?

ファンの方、すみません。
残念ながら私には合いませんでした。

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