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そして名探偵は生まれた (歌野晶午)

書籍情報

著者 : 歌野晶午
発行元 : 祥伝社
単行本発行 : 2005.10
文庫版発行 : 2009.2 祥伝社文庫

本格ミステリの典型的舞台設定である、雪の密室、孤島もの、館ものなどの素材を、読者を幻惑する筆致を持つ歌野先生が料理した、短編集。

収録作品

  • そして名探偵は生まれた
  • 生存者、一名
  • 館という名の楽園で
  • 夏の雪、冬のサンバ

こんな人にお薦め

  • 「いかにも」な本格ものが好きなあなた
  • でも実はちょっと変化球な方がお好みなあなた
  • 叙述トリック系がお好みなあなた

あらすじ

文庫版裏表紙より引用

影浦逸水(かげうら はやみ)は、下世話な愚痴が玉に瑕だが、正真正銘の名探偵である。

難事件解決のお礼に招かれた伊豆の山荘で、オーナーである新興企業の社長が殺された。
雪の降る夜、外には足跡一つなく、現場は密室。

この不可能犯罪を前に影浦の下す推理とは?
しかし、事件は思わぬ展開に……。(「そして名探偵は生まれた」より)

”雪の山荘”“孤島”など究極の密室プラスαの、ひと味違う本格推理の傑作!

 

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書評

スパイスが素材の味を凌駕しているが、それもまたすきずきかな?

歌野先生の作品にして、タイトルには「名探偵」の文字。

どうしたって目眩く本格の世界が、それもひと味違う世界が待ち受けていると楽しみになるではありませんか!

というわけで楽しみに手に取ったこの作品。

雪の山荘、孤島、館もの、消えた犯人と、どれも広義の密室ものと呼ぶことができる作品が揃っております。

結論を申し上げると「葉桜の季節に君を想うということ」で冴えを見せた記述を楽しむ作品集でした。一種の叙述トリックと言ってもいいのかもしれません。

ただし、その叙述トリック的部分は、最後のひとスパイスといった感じで、基本的な事件の謎解きは、ちょっと地味なくらい正当派で進みますので、この本のタイトルに惹かれて買われた本格ミステリファンの方はご安心ください。

でも、なぜか読後感としては、そのひとスパイスばっかりが印象に残ってしまって、普通に手がかりから真相を推理してきた部分の印象が残ってないんですけど……。

表題作の「そして名探偵は生まれた」ですが、事件自体は典型的な雪の山荘で起こる殺人事件です。

が、この作品のポイントは事件よりも、主役の名探偵・影浦逸水なのですね。

多くは語れませんが、物語の中の探偵と現実の名探偵である自分の状況のギャップにぼやき続ける名探偵という設定で……。

意味はあるのですが、この手の書き方は個人的には「もういいや」って感じです。

名探偵が夢物語だってことはわかってますってw

そこをグチグチ言われても、作品世界に没頭できないだけなので、私は好きではないですね。

で、次の「生存者、一名」はある事件を起こした新興宗教のメンバーが、逃亡の末、孤島に取り残されるが、一人、また一人と殺されてゆくといった趣向です。

こちらも、その事件そのものには一応の決着は付くものの、読者に対して最初から張られていた叙述の罠が最後に見事に発動して……これはなかなかに感心いたしました。

真相はどっちなんでしょうね?

……何のことかって?

それは読んでのお楽しみです。

「館という名の楽園で」は長年の夢であった、本格ミステリの館を建てた男がかつての仲間を呼び寄せて、犯人当てのゲームを行う、といった趣向。

こちらはなかなかの大トリックですが、その輪郭は思い当たる方も多いのではないかと思います。
しかし、手がかりの配置がさすがですね、文章の端々に手がかりが隠されていました。

この物語も例に漏れず、最後のどんでん返しがありますが、これはそれほど驚かされるものではありません。
しかし、結局のところ前2作品のどんでん返しは、事件本体と微妙に離れたものですので、その部分が浮いてしまっていたのに比べ、この作品が物語としては一番まとまりが良かったように思います。

最後の「夏の雪、冬のサンバ」ですが……ちょっとこのトリックはねぇ……。

あまりミステリのトリックに実現可能性というものを求めないワタシですが、ちょ~~~~っと無理がおありなのではないでしょうか?w

まあ、そんな無茶なトリックも本格ミステリの楽しみなのかもしれませんね。

総括としては、やはり最初の表題作が個人的には残念だったように思います。

面白かったかどうかではなくて、あまりに現実的な影浦探偵の描写によって、物語世界に入ることができず、それが一冊全体に余韻を持ってしまったことが残念なのです。

それでなくても、ストーリーを語るにはあまりにも典型的な舞台設定を持ってきている上に、各作品のポイントになっている部分が、書き手の存在を意識させる叙述トリック的な手法を使っている作品群なので、なおさらです。

登場人物の台詞が、その登場人物のものではなくて、歌野先生のものであり続けてしまった感じと言うのでしょうか?

まあ、あえてこのような典型的舞台を用意するところからして、物語よりも歌野晶午VS本格好きの読者の裏の探り合い、みたいなものを意図していらっしゃるようにも感じますので、それでよいのかもしれませんが。

ですから、小説と言うよりも、単純に謎解きを楽しもうという意図で読めば、王道の本格的トリックに叙述トリックにと色々美味しい部分がてんこ盛りとも言えますので、そういうニーズの方にはオススメできると感じました。

 

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