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黒いハンカチ (小沼丹)

書籍情報

著者 : 小沼丹
発行元 : 東京創元社
文庫版発行 : 2003.7

女学院の教師、ニシ・アズマ先生が鋭い観察眼で事件を解決する短編集。

* 初版は昭和33年8月、三笠書房より刊行された。

収録作品

  1. 指輪
  2. 眼鏡
  3. 黒いハンカチ
  4. 十二号
  5. スクェア・ダンス
  6. 赤い自転車
  7. 手袋
  8. シルク・ハット
  9. 時計

こんな人にお薦め

  • 「日常の謎」系統の作品が好きなあなた
  • ちょっとしたノスタルジーを感じたいあなた

あらすじ

文庫版裏表紙より転載

A女学院のニシ・アズマ先生の許にちょっとした謎が持ち込まれる、あるいは先生自らが謎を見つけ出す。
すると彼女は、鋭い観察眼と明晰な頭脳でもってそれを解き明かすのだ!

飄飄とした筆致が光る短編の名手による連作推理全十二編。
昭和三十二年四月から一年間、『新婦人』に「ある女教師の探偵記録」という角書付きで連載され、後に一本に纏められた短編集の初文庫化である。

 

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書評

「日常の謎」の元祖!!

全く知りませんでした。
小沼丹先生。

実際そもそも寡作な上に、ミステリ作家ではないようですので、東京創元社からこの作品が刊行されていなければ、大多数のミステリファンに知られることのないまま月日が過ぎてしまったことでしょう。

この作品集はA女学院の若い女教師であるニシ・アズマ先生が、日常の中に潜む様々な事件を鋭い視点で解決するという、現在ではそれほど珍しいとは思えないジャンルの作品集です。
が、何せ初版が刊行されたのが昭和38年!
これから松本清張先生を筆頭とした社会派ミステリが全盛を迎えようとしていた時代であることを考えると、とても独創的で、注目すべき作品であるように思います。

もちろん、物珍しさだけではなく、実際に面白い作品です。

この作品は登場人物についてニシ・アズマ先生をはじめ、みんなカナ表記で書かれており、人格的にも必要最小限な人物描写しかなされていません。
なのに、なぜか親近感が湧いてしまうのです。

全編にわたって彼女たちの行動は、作者が読者のそばに寄り添って「彼女たちの行動を一緒に観察してみましょう」と語りかけてくる感じで書かれています。しかもそこには常にユーモアが含まれており、すべてが微笑ましいのです。
例えば、冒頭のニシ・アズマ先生と屋根裏部屋の関係を説明するシーン。

高台にあり海が見える校舎の三階(屋根裏)がお気に入りの若き女教師。彼女はそこで物思いにふけるのか?
いやいや、そうではないけれど絵を描いたりするようで……と来ると「なんて絵になる風景だ」と思ってしまいそうですが、その絵が上手かということになれば話は別。
例えば、彼女が「シンデレラの幻想」というタイトルで描いていたカボチャは、どう見てもつぶれた風船玉にしか見えない代物で、結局のところ、この屋根裏部屋に彼女が来るのは、誰にも邪魔されずにお昼寝をするためなのです。

このような描写がもう少し丁寧に書かれているのですが、特に心理描写などもないのに、茶目っ気のある、抜け目のないニシ・アズマ先生の姿が目に浮かぶようで、一気にハートをキャッチされてしまいました。

全編こんな調子で、ニシ・アズマ先生はもちろん、愛すべき同僚や友人達、家族達が描かれているものですから、心が温まるったらありゃしません。

でもそんなニシ先生は、実は名探偵で……といっても裏稼業として探偵をしているということではなく、身近に起こった事件を鮮やかに解決すという意味です。
ただ、こう書くと普通の「日常の謎」系統の作品に思ってしまいそうですが、少し変わっているところがあります。
それは、起こった事件を鮮やかに解決する……ことはもちろんなのですが、事件が起こりそうな兆候を見逃さない視点を持っているということでしょう。実際、この作品集のうち、殺人が起こってしまう数編を除くと、ほとんどの物語でニシ先生は事件を見事に阻止しています。(正確に言うと、事件が起こったと同時に解決し、穏便に収めてしまうという感じのものが多いですが)

正直なところ、ミステリとしてはレベルが高いとは言い難いのですが、ニシ先生が単なる事件の謎解きだけにとどまらず、上手な落としどころまで持って行ってくれるので、その文体と相まって、とてもすっきりした気分でそれぞれの話を読むことが出来ました。

ちなみに「日常の謎」とはいいながら、実は起こっている事件を見ると、盗難、強盗、殺人と何でもござれなのですが、そのアプローチがあくまでも日常生活に対する観察に依っているものが多いので、ワタシ的にはあえて日常の謎系統としてとらえています。

既に小沼先生はお亡くなりになっていらっしゃるので、続編は望むべくもありません。
過去の恋人を引きずっているようにも見えるニシ・アズマ先生の今後を見てみたかったので残念です。

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