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KAIKETSU! 赤頭巾侍 (鯨統一郎)
書籍情報
著者 : 鯨統一郎
発行元 : 徳間書店
単行本発行 : 2006.2
文庫版発行 : 2009.1
江戸時代を舞台に、早とちりの剣豪が悪を斬る。……が、「悪」を証明すのはいつも斬ったあと。
ワンパターンの巨匠が贈る、痛快時代劇。
収録作品
- 山吹の好きな狼
- 川を渡った狼
- 密室の狼
- 湯煙に消えた狼
- 走り抜けた狼
- 雪化粧の狼
- 狼の群れ
- 甦った狼
こんな人にお薦め
- (ワンパターンな)時代劇をこよなく愛するあなた
- とにかく気楽に楽しみたいあなた
- オフコースが好きなあなた(読まないとわかりませんが!)
あらすじ
以下、文庫版裏表紙より転載
-
正義の味方・赤頭巾侍。
悪人どもをばっさばっさと斬り捨てる。その正体は、寺子屋の師匠にして津無時円風流の遣い手、久留里一太郎である。
一太郎、いささか直情径行の気味あり。
悪漢を退治した後にアリバイがあったと聞くと、苦しまぎれの“こじつけ”推理を展開する。しかも、毎回。
早トチリの剣豪の活躍を描く、異色のユーモア捕物帳。
書評
難しく考えちゃいけません
悪人は斬って捨てられるべきなのです。
そのためには悪事は極悪でないといけないのです。
瓦版屋は事件の犯人を知っているのが当然なのです。
正義の味方は証拠固めする前に悪を斬るものなのです。
……。
いやぁ。すごいですねえ。
水戸黄門も真っ青のワンパターンぶりです。
なにがすごいって、そのワンパターンっぷりもさることながら、瓦版屋の勘太です。
どんな事件でも犯人を知っています。
ちなみに各話の流れを説明すると
事件発生 → 一太郎(赤頭巾侍)が聞きつける → 瓦版屋の勘太にあっさり犯人を教えてもらう → 斬る → 同心の小田に斬った相手が犯人でないと言われる → 必死で考える → めでたしめでたし
ほぼ、すべての話がこの流れで説明できてしまうのですが、それでは書評にもなんにもならないので、事件解決の部分の流れを少し詳しく書いてみます。
勘太に犯人を聞いた一太郎こと赤頭巾侍は、なにも考えずにその剣の腕で犯人を斬って捨てます……が、自身番を冷やかしに行くと、犯人であったはずの人物にはアリバイがあったり、状況が密室だったりで、無実の人間を殺したかもと戦く一太郎は、必死で考えて不可能犯罪の謎を解くのです。
謎解きは各話それぞれ最後の方に数ページ。
きっと初めて鯨先生の作品を読んだ方は、とてもミステリ作品だとは思えないのでは……と思いきや、なぜかミステリ臭はそれなりにプンプンします。(私はこの本を時代小説の棚で発見しましたがw)
軽い謎解きとはいえ、アリバイ崩し、ダイイングメッセージ、消えた犯人、密室に雪密室ときっちりミステリ要素が詰め込まれています。
まあ、ミステリとしては推理クイズ本を読んでいるような感じですが。
しかし、このワンパターンな展開の中ですら、物語世界は少しずつ変容してゆきます。
赤頭巾侍の正体が一太郎であることが、徐々に同心・小田に悟られてゆく。
その一方、同心・小田は男性でありながら、徐々に一太郎への思慕を深めてゆく。
一太郎と向井道場の向井清之助との出会い、そしてその妹・小雪との出会い。
親の仇を捜し続ける一太郎と、清之助の父親で向井道場の主である将監との交流と勝負。
そして、一太郎と、法源和尚の娘・おゆうの関係は……。
ワンパターンな各話を通じてこれらの物語が紡がれてゆきます。
これもたいして意外な展開というわけではないのですが、ワンパターンな世界が、ある結末にゆっくりと近づいてゆく様は、見るものをドキドキさせます。
この辺のワンパターン論は、巻末の福井健太氏の解説やこのサイトの「邪馬台国はどこですか?」の書評に「ワンパターン」というテーマで詳しく書かれていますので、ぜひご覧ください。
結果、読み物としてはなかなか楽しいものに仕上がっていると感じました。
ワンパターンというものを「悪いもの」と決めつけずに読んでいただきたい作品です。
あと、下のネタバレコーナーで多少言及していますが、この作品でも鯨先生のお遊びは健在です。
それを見つけるのもこの作品の楽しみ方だと思います。
一点残念だったのは、法源和尚の正体についての伏線が、あまりに早く、あまりに分かり易く提示されてしまったことでしょうか。
おかげで将監との勝負のシーンなどの緊迫感が薄れてしまったように思います。
赤頭巾侍。
単に昔から良くある「黒頭巾」「紫頭巾」の捩りかと思っていたのですが、なにやらほのぼのテイストが漂います。
そういえば、やたらこの作品には「狼」が……。
そして、一太郎に思いを寄せる小田の台詞。
「さよなら」
「ただ素直に好きと言えぬのだ」
「愛を止めてくれるな。そこから逃げるでない」
等々
ああもう!!
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