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新・世界の七不思議 (鯨統一郎)
書籍情報
著者 : 鯨統一郎
発行元 : 東京創元社
文庫版発行 : 2005.2
「邪馬台国はどこですか?」につづいて、美人歴史学者・早乙女静香と在野の歴史研究家・宮田六郎が、繁華街のバーで歴史バトルを繰り広げる。
今回の謎は「新・世界の七不思議」
収録作品
- アトランティス大陸の不思議
- ストーンヘンジの不思議
- ピラミッドの不思議
- ノアの方舟の不思議
- 始皇帝の不思議
- ナスカの地上絵の不思議
- モアイ像の不思議
こんな人にお薦め
- 歴史、特に古代遺跡の謎が好きなあなた
- 気軽に読める短編集をお探しのあなた
あらすじ
以下、文庫版裏表紙より引用
-
東洋の寂れたバーの片隅で、過去幾たりもの歴史学者を悩ませてきた謎がいともあっさり解明されてしまうとは。
在野の研究家以上には見えない宮田六郎が、本職の静香を向こうに廻して一歩も引かないどころか、相手から得たばかりのデータを基に連夜の歴史バトルで勝利を収めていく。
宮田の説に耳を傾けながら、歴史に興味を持ち始めた若い頃のようにワクワクするジョゼフであった。
書評
より一層「推理」に重きを置いた歴史新解釈!
前作に引き続き、繁華街の外れにあるうらぶれたバーで、静香と宮田の歴史バトルが連夜のように繰り広げられます。
前作との違いは
- 扱うテーマが世界の歴史、それも古代遺跡にまつわる謎が中心になりました
- 二人の激闘の間に立つ抑え役が三谷教授から、古代史の世界的権威であるジョセフ・ハートマン教授に代わりました
- なぜかバーで出される飲み物や食べ物が洗練されています。
三谷教授が、舞台となるバー「スリーバレー」の名前を体現しているにもかかわらずあっさりお払い箱になってしまったのはともかくとして、以上の変化の中で、物語の構成上重要な変化は、やはり扱う謎の種類が世界の古代史中心になったことでしょう。
といいますのも、実は宮田氏は世界の古代史については、本人曰く「知識のエアポケット」らしく、上記「収録作品」で見ていただければ誰でも多少はわかる、超有名な世界の不思議について、ほとんど知識がないという状態で物語がスタートすることになるからです。
このことによって歴史バトルの質自体が変化しています。
前作においては、宮田自身がはじめから自説を持っているのですが、当然その場合、現存する書物や、著名な研究などのいわゆる「証拠」というものが存在し、宮田の新解釈というのは、その証拠をどのように解釈するのかという点に重点が置かれていました。
だから、(本当の学問的な見地から見ればどうかわかりませんが)普通の読者に対しては、突飛な説にもかかわらず、納得させられてしまう力がありました。
しかし、今回は宮田がその場で聞きかじった知識をもって歴史の真実を推理するということになっていますので、宮田の論証はよく日常の謎系統の短編集にあるような「証拠なき推理」になっています。
当然、説得力はがた落ちです。
前作のパワーを体験している方にすれば多少手応え不足を感じるかもしれません。
「まあ、そんな解釈もあるのかな?」
そんな感じです。
しかし、二つの理由で、私はこの作品はこの作品でいいよなぁ、って思います。
まず、ミステリ好きとしては、本作のような些細な手がかりからどんどん推理を広げていくスタイルというのは、それはそれで楽しいものだからです。
それどころか、歴史が苦手な人にとっては、いろんな文献を引っ張り出して論証するスタイルよりも、分かり易く提示された手がかりから推理を広げる本作のようなスタイルの方が合うのかもしれません。
そして、もう一つの理由は、そもそも扱う謎が前作のような簡潔かつ説得力のある解決を導くのは無理な種類のものだということです。
だって、そもそも遺跡の現物は残っていても、それについての資料がそもそも少なすぎるのですから。建造当時あたりの資料があるとすれば、せいぜいエジプトのピラミッドと始皇帝陵くらいのものでしょう。
しかしピラミッドについては、ピラミッド自体の謎に直接関わるような資料はなかったように思いますしね。(たぶん)
だから、前作と同じスタイルにこだわっていても、かえって失敗してしまう可能性が高かったであろうとは容易に想像できるところです。
だから、思い切って宮田に知識がないという前提にした方が、はなっから無理な専門的な論証を自然に回避しながら、宮田の閃きの冴えをも失わせないという結果に導くことができてよかったのではないかと思うのです。
それにしても、前作においても、よくあの長さであれだけの歴史解釈を詰め込んだものだと感心しましたが、本作においてはさらにスケールアップした謎をよくもまぁ短編集にまとめられるものだと感心してしまいます。
なんと本作品の最後の方では、静香と宮田がちょっと協力的!
お店の歴史バトル用装備の数々、酒、肴、いろんなものが進化し続けています。
続編があるなら、人間関係の方ももう少し進化があっても嬉しいですね~。
本作は子どもの頃、多少は興味を持ったようなネタが多かったです。
ピラミッド、ストーンヘンジ、ナスカの地上絵、モアイ像……。
この本を読めば、あなたもきっとそんな頃を思い出して、またちょっと調べてみたりしたくなるはず。
そのような「謎」に対する好奇心が、鯨先生の原動力なのかもしれません。
バー「スリーバレー」のオーナーは大学教授らしいのですが……。
ん~~。
普通に考えれば、「スリーバレー」教授しか思い浮かばないのですが、前作にもそんなことを匂わせる記述あったっけ?
もしくは、他の作品にでている人?
またまた、さらに続編が!?
楽しみにしてましょう。
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