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六枚のとんかつ (蘇部健一)
書籍情報
著者 : 蘇部健一
発行元 : 講談社
新書版発行 : 1997.9
新書改訂版 : 1998.2
文庫版発行 : 2002.1
蘇部先生のデビュー作で第三回メフィスト賞受賞作。
その下品さと、バカミステイスト故か、発表時には苛烈な批判が巻き起こったらしい問題作。
新書版と文庫版では複数の作品が入れ替えられている。
収録作品(文庫版)
- FILE No.1 音の気がかり
- FILE No.2 桂男爵の舞踏会
- FILE No.3 黄金
- FILE No.4 エースの誇り
- FILE No.5 見えない証拠
- FILE No.6 しおかぜ⑰号四十九分の壁
- FILE No.7 オナニー連盟
- FILE No.8 丸ノ内線七十秒の壁
- FILE No.9 欠けているもの
- FILE No.10 鏡の向こう側
- FILE No.11 消えた黒いドレスの女
- FILE No.12 五枚のとんかつ
- FILE No.13 六枚のとんかつ
- FILE No.14 「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」を読んだ男
- 最後のエピローグ
- ボーナス・トラック 保険調査員の長い一日
こんな人にお薦め
- バカミス(誉め言葉)好きなあなた
- 難解な本に疲れたあなた
- ちょっと下品な笑いが好きなあなた
あらすじ
文庫版裏表紙より引用
-
空前絶後のアホバカ・トリックで話題の、第3回メフィスト賞受賞作がついに登場!
新作『五枚のとんかつ』も併録。
またノベルス版ではあまりに下品だという理由でカットされた『オナニー連盟』もあえて収録した、お得なディレクターズ・カット版。トリックがバレないように、必ず順番にお読みください。
書評
あとがきを拝見すると、発表時には笠井潔先生の「単なるゴミである」というものをはじめとするなかなか苛烈な批判があったようなのですが……私には、大まじめに批判を繰り広げた人たちこそ「してやられた」のではないかと思ってしまいます。
森博嗣先生を世に出し、清涼院流先生の「コズミック」で物議を醸した、良くも悪くも注目度が高くなってきたメフィスト賞の、ある意味真価が問われる第三回受賞作ということで、いろんな評論家、ミステリファン達が手ぐすね引いて待っていたところに、この徹底的なバカミステイストにさらにお下劣さをミックスしたこの作品が来たものですから、まあ、批判したくなる気持ちはわからなくもないです。
でも、巻末の解説にもある通りわたしもそんなむきにならなくてもいいのにと思ってしまいます。
だってなかなか面白いし。
こうしてお遊び感覚で気軽に読めるミステリもあったっていいじゃない。
たしかに文章もいわゆる「センスのある」ものではないと思います。
でも、この作品には格調高い表現なんてそもそも似合わない!
たしかに下品だし、ギャグには薄ら寒いオヤジ臭い雰囲気が漂っています。
が……下品なギャグが嫌いな人は見なければいいし、その下品さとオヤジ臭さが絶妙のハーモニーを奏でている(?)ではありませんか!
荒唐無稽なトリックも多いです。
だってバカミスなんだもん!
と、誉めているのかけなしているのか微妙な感じで書いていますが。
でも、実はばからしい、下品な結末を隠れ蓑に、なかなか鮮やかなどんでん返しを駆使している作品も多いのです。
特に隠された黄金のありかを推理する「黄金」や、素っ裸の男の死体だけでなく、自分の服や下着までも残して消えた女性の謎を扱う「消えた黒いドレスの女」などは、読者をミスリードする手口がなかなかイケてます。
ほかにもアリバイもの、錯覚もの?、ダイイングメッセージものに密室ものとバリエーションも豊かです。
全体的に、冷静に見ると下手な正当派本格作家の書く短編集よりも、ミステリ的な質は意外に高いような気がします。
ただ、そのミステリの骨格にわざと低俗な肉付けをすることで、読者の目をくらませているようにすら思えます。
まあ、そうはいっても正味のバカミスもふんだんにあるのも事実なのですが。
それにしても面白かったにもかかわらず、実に人に薦めにくいというのが困ったところです。
全般的にさむ~いオヤジギャグ満載の本作ですが。
「どこの世界に、金の延べ棒をすけべ椅子につくりかえるバカがいるんだよ?」
「ですよね」
「古今東西、フルチンで謎解きをした名探偵なんて、聞いたことがないね」
この辺がツボにはまってしまったワタクシも立派なオヤジへの第一歩を踏み出してしまっているのでしょうか?
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