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コズミック - 世紀末探偵神話 (清涼院流水)

書籍情報

著者 : 清涼院流水
発行元 : 講談社
新書版発行 : 1996.9
文庫版発行
: コズミック ・ 流(上) 2000.4
: コズミック ・ 水(下) 2000.5

清涼院流水先生のデビュー作。
第2回メフィスト賞受賞作。JDCシリーズ第一期の作品である。

こんな人にお薦め

  • 話題になった作品は読んでおきたいあなた
  • チャレンジャー精神豊富なあなた
  • 大げさな設定が好きなあなた
  • 「本格」の枠組みなんかに囚われないあなた

あらすじ

以下Amazonより引用

『今年、1200個の密室で、1200人が殺される。誰にも止めることはできない』――1994年が始まったまさにその瞬間、前代未聞の犯罪予告状が、「密室卿」を名のる正体不明の人物によって送りつけられる。

1年間――365日で1200人を殺そうと思えば、一日に最低3人は殺さねばならない。だが、 1200年もの間、誰にも解かれることのなかった密室の秘密を知ると豪語する「密室卿」は、それをいともたやすく敢行し、全国で不可解な密室殺人が続発する。現場はきまって密室。被害者はそこで首を斬られて殺され、その背中には、被害者自身の血で『密室』の文字が記されている……。

 

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書評

* 筆者が読んだのは「流」「水」に分かれる文庫版である

すでに21世紀となって数年が経過しているが、まさに20世紀末の大問題作といえるのが本書である。
なんと言っても私が本書を読むきっかけになったのも、mixi内のミステリ好きが集まる某コミュ内での「最低のミステリ」を挙げてゆく掲示板で、本作が圧倒的な勢いで支持(?)されているのを目にしたことにあるのである。

その掲示板では、「読了後、実際に本を投げつけたのはこの作品が初めてだ」といった趣旨の発言が数多く見受けられた。
またそれ以外のサイトでも、罵倒しているものあり、冷静に非難しているものあり、非難・批判のオンパレードなのである。ひどいものでは新書版の異様な分厚さを揶揄して、「レンガみたいで持ち歩きにくい」「これで人を殴ったら殺せる」といったコメントもあった。

しかし、その半面「史上最高のミステリ」といった感想もちらほら見られ、どういう作品がこれほど両極端な感想を引き出すのか覗いてみたいと、私は思ってしまったのである。とはいえ、この本は妙に分厚い。正直なところ、最後まで読んで本当につまらなかったらどうしよう、という思いも強く、そこにこの分厚さがプラスされるものだから、読もうと決心するのに約 1ヶ月かかってしまった。

前置きが非常に長くなってしまった。

この作品の内容は上のあらすじで書いたとおり、密室卿と名乗る犯人の
「一年間で1200人が1200個の密室で殺される」という史上類を見ない大風呂敷ではじまる。元旦、初詣客でごった返す平安神宮での首切り殺人を皮切りに事件が延々と続いてゆく。上巻は延々と(広義の)密室殺人が続き、その殺人の数、実に19。

結構きつい。

事件と事件の間のつながりもまったく見えず、探偵役すら出てこないから当然推理が展開されることもない。ようやく事件に動きが出てきたのが18番目の密室殺人。ここで「密室卿の使者」と見られる人物が殺害され、次の19番目の事件でようやくこのJDC(日本探偵倶楽部)シリーズにおける探偵役たる JDCのメンバーが表舞台に出てきてほっとしたのだが……。まあここは読んでください。

ここまでの事件の羅列は、普通に小説として考えれば無駄の多い、退屈な描写に見えてもしかたない。しかし、この単なる羅列に見える表現こそ、この非常識で、しかし機械的に続く事件の全体的に奇妙なイメージを読者に正確に植えつけるものであるような気もする。

そして下巻。

今度は打って変わって、JDCの個性的な探偵たちがどんどん登場して、様々な推理を展開する。もちろんその間にもどんどん事件は進行する。ほとんどは物語の合間に事件の概略だけが示されるといった感じだが、前半とは打って変わったこの事件の描写が、非常識だった事件が次第に日常的に、より一層淡々と続いているという雰囲気を良く表していると思う。

計算されたものかどうかは微妙だが。

個人的にはこのJDCの探偵達の描写を見ているだけでも楽しめる。が、一般的に良く見られる批判に、「個性的な探偵たちが数多く登場しているのにそれを活かしきれていない、というものがある。

果たしてそうだろうか。

もちろん一人の名探偵が最初から最後まで事件を解決する類の小説と比べると、一人ひとりの探偵の人物は、まあ、描けていないことになるのだろうが、これは当然である。
しかし、私には ― 本作の上下巻の間に「ジョーカー」上下巻をはさんで読むという作者推奨の順序で読んだのだが ― それぞれの探偵の印象が強く残った。
それぞれの探偵が単に独特の推理方法を持つ推理マシーンとしてではなく、その内に秘められた葛藤などを通して、なかなか人間的に描かれていたと思うのである。

確かにそれぞれの探偵の独特の推理方法までは特徴的に描かれていたとは思わないが、これは今回の事件がほとんどの探偵の能力を凌駕するレベルのものであったので、その特性を発揮できなかったのだ、と無理やり解釈すれば、まあ許せる。
個人的には、このJDCの様々な探偵を主役に据えたもうちょっと普通の推理小説などを外伝的な形ででも発表していただければとってもうれしい。

また、探偵の中で「神通理気」 ― 手がかりさえそろえばたちどころに真相に到達するというとんでもない推理方法 ― を駆使する「九十九十九」という圧倒的な能力を持つ探偵が登場し、結局彼が一応事件を解決するということになるのだが、これについてもあまりに論理的思考の積み重ねという、推理小説に欠かせない、ある意味(読者にとって)おいしい部分を抜きに真相に到達してしまうことから、ミステリファンの批判が目立つ部分となっている。

しかしこの探偵についても私は肯定的だ。
もし探偵がこの九十九十九一人しか登場しないのならちょっと問題があると思うが、この本には数多くの探偵たちが登場し、九十九の代わりに様々な仮説をたてて思い悩む過程が描かれているからである。
すなわち物語全体とすればそれなりに推理の試行錯誤を繰り返す過程が描かれつつも、あくまでも九十九の能力の超人生を微塵も失わせない構成となっているのである。
もちろんここは好みの分かれるところであろうが、私は「スゴイやつはとことんスゴイ!」といったわかりやすい展開が好きなので問題なし、なのである。

もちろん九十九の「美しすぎるため警察からサングラスをかけて視線を遮蔽することを要請されている」なんて大げさにすごいところも大好きだ。

さて、そうこうするうちにこの事件の前に死んだはずの作家「濁暑院溜水」が書いたと見られる、この密室殺人の詳細を描いた原稿が出てきたり、自称千歳の怪しげな老人が出てきたりして、事件はよりいっそうわけのわからない展開へと。そして、問題の謎解きであるが……。

それは以下の注意書き以降に書いておりますが、未読の方は読まないで、としてしまっているので、未読の方にはいきなり最後の一言を。

読む価値はありまっせ。

はまっても知りませんよ。

あ! そうそう。この本はできれば(文庫本で読むなら)推奨されている順序コズミック(上)-ジョーカー(上)(下)-コズミック(下)の順序で読んだほうが面白いですよ。


以下、ネタバレありです。未読の方はご注意を


うん。

なかなかまともではないか。

いや、まともではないのだが、完全に超常現象などのレベルでしか説明できないのでは?と危惧していたために、以外にまともに人間が行った犯罪であると説明されてしまったので、私などは素直に感心してしまったのである。

無論現実的に細かく見ると、無理でしょ? と思ってしまうのだが、それは実は数多くの推理小説にも同じことが言えてしまうと思うので、物語としての意外性として受け入れてしまえばよいのではないかと思う。

しかし、このラストにいたるまでいわゆる本格推理小説としてこの本を読み進め、一つ一つの事件に対してきっちり推理を試みてきた人(いるのか?)にとってはあまりに大局的な推理・解決であり、本を壁に投げつけたくなる気持ちもわからないでもない。

思うに、この作者の作品はまさに自身がおっしゃるように「小説」ではなく「流水大説」なのであり、いかに大きな流れの物語を楽しむかがポイントなのではないだろうか。

細かい部分の推理やトリックなどは、重要ではあるものの、本来の推理小説とは逆にこれが料理で言うところの素材そのものなのではなく、あくまでも細かい謎やトリックは「素材=話の大局的な流れ」の味を引き立てるスパイス的な役割を担っているのではないだろうか。

そんなわけで、私は好きです。

読むのは結構疲れましたけどね。

この本の前に二階堂黎人先生の「人狼城の恐怖」を読んでいて、長編に対する免疫が付いていたのも良かったかも。

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