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稀覯人(コレクター)の不思議 (二階堂黎人)
書籍情報
著者 : 二階堂黎人
発行元 : 光文社
新書版発行 : 2005.4 カッパノベルス
文庫版発行 : 2008.10 光文社文庫
ライト感覚が売りの水乃紗杜瑠(みずのさとる)シリーズ、学生編第3作。
「手塚治虫」「古本収集」を中心に据えた蘊蓄と物語を、自身手塚治虫と古本マニアの二階堂先生がマニアックに、しかも本格ミステリとして描いた作品。
こんな人にお薦め
- 手塚治虫好きなあなた
- マニアな世界が好きなあなた
- それでもやっぱりミステリは本格命なあなた
あらすじ
二階堂黎人先生公式HP「二階堂黎人の黒犬黒猫館」より引用
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手塚治虫愛好会の会長が自宅の離れで殺され、貴重な手塚マンガの古書が盗まれた。
しかも犯人は密室状態の部屋から消え失せてしまった!
犯人は愛好会のメンバーなのか?大学生、水乃サトルが持ち前の頭脳と知識と軽薄さを駆使し、高価なマンガ古書を巡る欲望と、マニア心が渦巻く事件の謎を解く。
書評
「手塚治虫」+「古本収集」×本格ミステリな珍品
えーと。
珍品と言ったら怒られますかね?
本作品は絶世の美青年にして多趣味な――オタクと言って全く差し支えない――変人、水乃紗杜瑠(みずの さとる)シリーズです。
中でも、そのまんま土曜ワイド劇場にもって来れそうな、旅情ミステリ色満載の社会人編に比べ、マニアックな水乃紗杜瑠のイロがよく出ている学生編にあたるこの作品なのですが……どちらかというと、水乃紗杜瑠ではなく二階堂黎人先生のマニアックぷりが炸裂している感があります。
とにかく手塚治虫先生と古本収集の二色に染まりきった物語。
重度の手塚治虫マニア達が集う「手塚治虫愛好会」なるサークルを舞台に降りかかる事件には、数々の手塚治虫の稀覯本の存在とそれらを巡るコレクター達が絡み合います。
なんだかミステリと言うよりも、手塚治虫マニア入門書を読んでいる感覚でした。
少々趣味に走り過ぎなのでは? と思わなくもないですが、もうこれは二階堂先生の病気(失礼)みたいなものなので、仕方ないのでしょう。
この物語の時代設定が1980年代ということで、単なる手塚治虫蘊蓄以外にも、まだネットなどが普及していない時代の同好の士の集いの情景や、稀覯本(きこうぼん・とても珍しい本)を巡る駆け引きの様なども興味深く読ませていただきました。
今はネットがあるから、少なくとも「情報」という面では、ある意味誰でも簡単にマニアになれてしまう時代です。
でも、もしかするとそのことが、マニアの価値を相対的に下げてしまっているのかな、などと古き良き時代に思いをはせながらページをめくっておりました。
そんなわけで、ミステリとしての印象が完全に手塚治虫に喰われてしまっている印象のある本作ですが、読了後に改めて内容を確認すると、さすがは二階堂先生。
ミステリとしても、密室、アリバイ、動機の謎などがまんべんなく盛り込まれた正当派の本格ミステリに仕上がっていたことに気付かされます。
愛好会メンバーの女子高生、美也子を中心に語られる事件は、愛好会会長である星城の殺人。
当然のように事件に巻き込まれるメンバー。
もちろんその中には水乃紗杜瑠もいるわけで、美也子は紗杜瑠と共に事件解決を目指しますが、そこに愛好会初代会長にして美也子の義兄の三浦氏が絡んできたり、その恋人が襲われたり、過去に失踪した手塚治虫コレクターが絡んできたりと、軽いタッチながら、なかなか凝った造りになっています。
確かに手塚マニアトークが比重を占めすぎの本作ですが、事件の方も徹頭徹尾、手塚マニア達を主役とする意味のある造りになっているところもさすがです。
実は読了時の印象はそれほど良くなかったのです。
はじめに書いた通り、水乃紗杜瑠ではなくて、二階堂先生のマニア心がストレートに出過ぎていて、すごく自己満足的な作品に思えたからです。
でも、やはりこの作品は本格ミステリをこよなく愛する二階堂先生の作品です。
小さな矛盾や、実現可能性などを考えると首をひねるところもあるのですが、数多くの謎に細かい叙述トリック的な描写も使いながら、うまく読者を騙しつつも、読者になぜこれがわからなかったんだろうと思わせるくらいシンプルかつクリアな謎解き。
妙な大トリックが大好きなイメージの強い二階堂先生だけに、この洗練された謎解きも、一種のしてやられた感があって良かったです。
読み終わってからじわじわ味の出てくる良作でした。
美浦の恋人、明美の傷害事件の犯人、犯行の経緯はどうなんだろう……?
まあ、あそこがミステリとしてはポイントなわけですが、あんなコトくらいで鉄パイプ用意して訪問したと考えると……あの犯人はかなりアブナイ人だと思わざるを得ないのがちと残念。
ちなみにメインの星城殺しも、真相を知った上で考えると、かなり犯人にとって危険きわまりない殺害方法のような気がしますなぁ。
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