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謎亭論処-匠千暁の事件簿 (西澤保彦)
書籍情報
著者 : 西澤保彦
発行元 : 祥伝社
新書版発行 : 2001.3
文庫版発行 : 2008.3
匠千暁、辺見祐輔、羽迫由起子、高瀬千帆の四人が活躍するタック&タカチシリーズ第7弾の短編集。学生時代のものから、社会人となったあとのものまで、いろいろな時期を描いた作品が混ざっている。また、ボーナストラックとして収録された「新・麦酒の家の問題」は著者の「麦酒の家の冒険」の続編的位置づけである。
収録作品
- 盗まれる答案用紙の問題
- 見知らぬ督促状の問題
- 消えた上履きの問題
- 呼び出された婚約者の問題
- 懲りない無礼者の問題
- 閉じ込められる容疑者の問題
- 印字された不幸の手紙の問題
- 新・麦酒の家の問題
こんな人にお薦め
- 安楽椅子探偵スタイルが好きなあなた
- タック達四人組が好きなあなた
- オーソドックスに推理を楽しめる短編集をお探しのあなた
あらすじ
以下 新書版裏表紙より引用
-
女子高教師の辺見祐輔は、忘れ物を取りに戻った夜の職員室で、怪しい人影に遭遇した。その直後、採点したばかりの答案用紙と愛車が消失。だが二つとも翌朝までには戻された…。
誰が? なぜこんなことを?
やがて辺見の親友タックこと、匠千暁が看破した意外な真相とは?続発する奇妙な事件の数々。
めくるめく本格推理の快感。
そして呑むほどに酔うほどに冴える酩酊探偵タック!日本ミステリ史上屈指の作中酒量を誇る、著者人気シリーズ、待望の最新傑作、書下ろしオマケ作品付き。
書評
論理的な妄想でスピード解決!
わたしが本作の前に読んだタック&タカチシリーズは「麦酒の家の冒険」ですが、内容的には面白かったものの、長編にしてはラストが弱いなぁと感じたものです。
その理由は、論理的な根拠があるもののそこからふくらんでいる話は半分くらい妄想チックなもので、それがあっさりと真相を言い当てていたといわれても説得力がない、というものでした。
本作に関しても展開的には同じ感じでした。
が、やはり本質的に短編向きの構成なのでしょう。
本作は素直に楽しめました。
やはり根拠はあるものの、だからといって「これしかない」と言い切るにはいろいろ足りないような気もする推理が乱れ飛びますが、短編ならではのテンポの良さで、そこに疑問を持つ前にすっきり終わってしまいます。これなら充分アリだと思いますね。
謎の設定自体も、変に凝っているわけではないながらも、うまく読者を惹きつける状況が多く、退屈せずに一気に読めてしまう楽しさです。
わたしとしては、ボアン先輩が勤める私立女子高校で、採点済みの答案が盗まれ、ついでに乗ってきていた車まで盗まれるも、両方ともすぐに戻ってきて???な「盗まれる答案用紙の問題」の論理の組み立て方は見事だと思いましたし、身に覚えのない家賃の督促状の謎が語られる「見知らぬ督促状の問題」の最後の一ひねりには驚かされました。
無理矢理会いに来た元婚約者が、約束をすっぽかしたあげく心中してしまった「呼び出された婚約者の問題」は料理のしようによっては長編にでもできるのではないかとすら思いましたし、子どもの間に出回った不幸の手紙のほんの些細な矛盾点から、そこに隠された謎を解く「印字された不幸の手紙の問題」では、そんなバカなという中に最近の世相を見るにつけ、もしかしたらあり得るかも?と思わずにはいられない動機にうなってしまいました。
そして「新・麦酒の家の問題」は単純に「麦酒の家の冒険」を読んだ人にとっては嬉しいでしょうね。
まあ「消えた上履きの問題」はちょっと後味が悪すぎて好きになれなかったりしますがね……。
ただ、四人が揃っているときには本当に鋭い推理をするのは、ほぼタックのみなのに、作品によってタックがあまり(もしくは全く)出てこない展開になると、その時の登場人物がいきなり名探偵になってしまうのは、ちょっとご都合主義的に見えてしまいます。
全体的には、短編集ならではの気軽さで読める一方で、充分謎解きの楽しさも味わえる良作だと感じました。
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