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完全無欠の名探偵 (西澤保彦)

書籍情報

著者 : 西澤保彦
発行元 : 講談社
新書版発行 : 1995.6
文庫版発行 : 1998.5

デビュー作「解体諸因」につづいて刊行された西澤先生の第2作。

解体諸因と同じく連作短編集の体裁をとっているが、探偵役の山吹みはるの「能力」など西澤SFミステリの原形とも言える要素が詰まった作品である。

こんな人にお薦め

  • 安楽椅子探偵ものが好きなあなた
  • 「連作」短編集が好きなあなた
  • 西澤先生独特のSFミステリが好きなあなた(チョーモンインシリーズなど)

あらすじ

以下文庫版裏表紙より引用

遠く離れて暮らす孫娘りんのため、大富豪がお目付け役に送り込んだ青年山吹みはる。
「誰も嘘をつけないのよ、きみを前にすると」彼が短いあいづちを打つだけで、人々が勝手に記憶の糸を辿り、隠された意外な真相へと導かれる。

精緻なロジックで事件が分析、推理されていく究極のアームチェア探偵新登場。

 

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書評

面白いけど、ちょっと不親切

彼を目の前にすると誰もが自然に本音を語り出し、さらには本人も忘れていたような些細な事実をも思い出し、いつしか謎がほぐれていく……そんな得意能力を持つ山吹みはるが探偵役のこの作品。

いかにもSFミステリの第一人者たる西澤先生らしい設定です。

さらに、各話の間に挿入される「fragment」 ―― 少女が崇拝に近い憧れを持っていた家庭教師の女性が持ってきたケーキの箱からなぜか鳩の死骸が出現し、それを見た家庭教師の女性の醜悪な反応を見てしまった少女の物語 ―― も幻想的な雰囲気に彩られ、SF的雰囲気を盛り上げます。

物語の構成としては、短編集ながら、最後に一つの結末にまとまる、いわゆる「連作短編集」となっています。
大富豪の孫のりんに接近してその本音を聞き出すという任務を本人も知らされないまま負わされたみはるが、りんの勤める「安芸女学院短期大学」の事務職員として送り込まれます。
そしてその能力を(無意識に)駆使して周囲の人間の心に埋もれていた「謎」を解きほぐしていくうちに、ある一つの事件の全貌が形作られていくといった趣向です。

その一つ一つの謎は、謎解きとしてはそれほど凝ったものではないのですが、醍醐味は謎解きそのものよりも、みはると話し始めたときには下手すると「事件」ですらなかった過去の事実が、話しているうちに一つの事件としての側面を顕すところでしょう。

その、きっかけはだいたい本人も忘れていたような些細な事実を思い出すところから来るものですが、これは事件そのものは殺人あり、レイプありで軽くはないものの、手法としては、日常の中の些細な事実から推理を組み立てる「日常の謎」系統のそれのように感じます。

そして中盤あたりからは、読者の側にも作者の意図 ―― ラストですべての事実が結びつく ――が見えてきます。
だからこちらもそのつもりで読み進めるのですが……。

ちょ~~っとわかりにくい。

なんだか妙に登場人物が多く、あっちこっちで無関係だと思われていた人物同士が繋がっていくので、のんびり読んでいると最後の方は結構誰が誰だかわからなくなってしまいます。
せめて登場人物表が欲しい!

かなり練られたプロットだと思うのですが、もうちょっと「振り返り」がほしかった。
言ってみればそれぞれの短編エピソードが最後に明かされる事件の伏線みたいなもので、伏線自体が一つのミステリとなっている点で、なかなかの深さを感じさせてくれるのですが、なんせ特に前半は普通に短編集を読む気軽な感じで読み進めているうえに、事件自体も小粒な感じのものが多いものですから、最後の方になるとその「小粒な事件」自体はともかく、そこにしか登場しない人物の記憶などおぼろげな感じになってしまっているのです。

最後の結末の謎解きのところで、もう少し今までの事件のつながりを分かり易く、というより読者に今までのエピソードを思い出させる感じで書いていただけると、よりまとまったような気がします。

あと、本作に登場した「能力」ですが、それほど必要性を感じませんでした。

詳しくは書きませんが、ミステリにありがちなご都合主義 ―― 素人探偵に事件の関係者がどんどん情報を話してくれたり、都合のよい偶然で手がかりが得られたり ―― を手っ取り早く正当化するために超能力を持ってきたような感じです。

この設定がなければ続編を書くこともできたのではないかと妄想してしまうワタシですので、なおさらこの作品のSF仕立ては無くてもよかったように思ってしまうわけです。

とはいえ、全体的に見れば、やはり短編集の気軽さと、長編の凝った構成の両方を楽しむことができる良作だと思います。

 

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