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夏のレプリカ REPLACEABLE SUMMER(森博嗣)
書籍情報
著者 : 森博嗣
発行元 : 講談社
新書版発行 : 1998.1
文庫版発行 : 2000.11
犀川助教授と西之園萌絵のコンビが活躍するS&Mシリーズの第7弾。
前作「幻惑の死と使途」と対の構成になっていて、本作の章立ては偶数章のみで構成されている。
具体的には起こる事件が2作品で同時進行になっている。
こんな人にお薦め
- 論理的ミステリが好きなあなた
- 綺麗にだまされたいあなた
あらすじ
以下文庫本裏表紙より引用
-
T大学大学院生の簑沢杜萌(みのさわともえ)は、夏休みに帰省した実家で仮面の誘拐者に捕らえられた。
杜萌も別の場所に拉致されていた家族も無事だったが、実家にいたはずの兄だけが、どこかへ消えてしまった。
眩い光、朦朧(もうろう)とする意識、夏の日に起こった事件に隠された過去とは?『幻惑と死と使途』と同時期に起こった事件を描く。
書評
どうってことないのにやられてしまう
人気マジシャンに関わる殺人事件を描いた前作「幻惑の死と使途」と同時期に発生した資産家一家の誘拐事件と、それに続いて起こった誘拐犯の謎の死。
大トリック満載で、何かと華やかだった前作に比べると作中でも言われているように、地味~なかんじです。
頼みの西之園嬢も親友の簑沢杜萌の一大事だというのに、もう一つ乗り切れません。
そして彼女が乗り切らないと言うことは、犀川先生もあんまり関わらないということで、なんだかしょんぼり展開。
しかし、意外と本格ミステリファンが好きなのはこういう事件なのかもしれません。
終始仮面で顔を隠していた犯人。
現れたもう一つの仮面。
密室から消えた盲目の兄、素直。
家族の手で閉じ込められていたっぽい素直の謎。
その兄からの電話。
杜萌と素直の隠された過去。
さまざまな要素が不可解な誘拐犯達の死の真相に対する疑惑を呼び起こします。
読者に巧みに手がかりを与えると見せかけて、あらぬ方向へ導く流石の手腕です。
前作のような大トリックを看破するのもミステリの醍醐味ですが、本作のように小さなパズルのピースをはめ込んでいくタイプの謎解きの方が、作品全体が一つの謎を構成しているようなものですので、以外と読み応えがあったりします。
だからこそ、ネタバレ無しの書評を書くのが難しいこと。
あからさまな手がかりはもちろん、どこを取り上げても真相にかすってしまいそうで。
しかし、このパズルタイプの謎解き自体も真のトリックの道具にしか過ぎなかったとは……。
おっと!
これ以上は下のネタバレコーナーでお話しいたします。
ただ、漫然と読んでしまうと、その真のトリックの価値に気付かずにスルーしてしまう可能性もありますので気合いを入れて読みましょう!
ちなみに、正直なところ、前作とセットにして章立てまで交互にするだけの必然性は私には感じられませんでした。
例え「名前」というテーマが共通に語られているとしても……。
もちろん「なぜ必然性なんかが必要なんだ?」と言われればその通りなのですが……。
まあ、なんといいますか。
やっぱり本作でも綺麗に一本決められてしまいました。
そう。
特にこの作品では「綺麗に」決められた感が強いです。
あの犯人は、ミステリならそれほど珍しいパターンというわけではないのですが、今回は想像もしていませんでしたね~。
正当派のミステリに、うまく叙述トリックが絡められて、ミステリファンの深読みの対象を巧みに真相からそらしている感じです。
とはいえ、なにげに読んでいると見逃してしまいそうですが、実のところこの叙述トリックらしきもの自体がトリックの主体だったのですね。
色々提出された事件の手がかりは結局このメイントリックを構成する要素に過ぎなかったようです。
単に作者が読者をだますことを目的に、その表現で読者をだますのが叙述トリックだと思うのですが、この作品ではそのような紛らわしい表現をした理由がきちんと語られています。
人の視点。
普通の叙述トリックものの場合、言ってみれば「作者の都合」なのですよね。
しかし、この作品ではその辺が、物語上の必然であることが明らかになりますので、叙述トリックものにありがちなアンフェア感はあまり感じませんでした。
まあ、ぎりぎりではあるのですがw
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