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まんだら探偵 空海 いろは歌に暗号 [かくしごと](鯨統一郎)
書籍情報
著者 :鯨統一郎
発行元 : 祥伝社
新書版発行 : 2004.8 ノン・ノベル
文庫版発行 : 1994.7 祥伝社文庫
とんち探偵一休さんシリーズに続く、陰陽師・六郎太と白拍子・静のコンビが歴史の謎に挑むシリーズ。
今回の謎はいろは歌に隠された暗号。
時の帝・上皇・藤原薬子・坂上田村麻呂らが絡む壮大なミステリを空海・最澄のライバルが紐解く。
こんな人にお薦め
- 歴史ミステリが好きなあなた
- 鯨流歴史新解釈がお好みのあなた
あらすじ
以下文庫版裏表紙より引用
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弘仁元年(八一〇)、平城上皇を操って謀反を起こしたと言われる「薬子の変」。
その稀代の悪女・藤原薬子とは何者か?
事件の真相を追うは、若き真言密教僧の空海とライバルである天台宗の高僧・最澄。
二人の知恵比べに型破りな推理が錯綜する……。「いろは歌」、さらに「かたらむ歌」四十七文字に隠された驚愕の真相とは!
これはもしかして歴史上の大発見?
書評
B級に見えて実はA級!鯨流歴史新解釈の醍醐味!
このシリーズって正直損してると思うんですよ。(いきなりかっ!)
陰陽師の六郎太と白拍子の静が歴史に潜む謎の端緒に迫り、それをきっかけに当時の隠された物語が語られるというスタイルのこのシリーズ。
前作は一休さんだし(参考 : とんち探偵一休さん 金閣寺に密室 [ひそかむろ] ・とんち探偵一休さん 謎解き道中 )、今回は「まんだら探偵 空海」だし……う~む。
B級の香りがそこはかとなく!
でもね、金閣寺に密室のレビューでも書いたのですが、こりゃ決してB級ではないです。(謎解き道中はB級かもしれないw)
A級の歴史ミステリです。
この物語の舞台は平安時代の初期。あまりワタシにとってなじみ深い時代ではありません。
でも、登場人物を見ればAクラスのスター達のオンパレードです。空海・最澄・坂上田村麻呂、神野帝(後の嵯峨天皇)、平城天皇、そして希代の悪女として名を残している藤原薬子。これらの人物達が、実に活き活きと描かれ、あまり歴史に詳しくない読者をもきっちりその世界に引き込んでくれます。
もちろん、本当の意味での歴史の真相を綿密な考証によって明らかにしているという類の歴史ミステリではありません。あくまでも鯨流新解釈です。
しかし、それがいい。
普通中途半端な歴史考証に基づく創作をすれば、面白いとしてもそれはただの創作物語となってしまうはずですが、鯨先生の新解釈は、鯨先生のデビュー作「邪馬台国はどこですか?」でもそうだったように、その新解釈にいたる手がかりがきちんと提示されていて、さらに一般に言われている歴史上の事実やストーリーを極力ねじ曲げずに、その手がかりを当てはめることでまったく違う側面を見せてくれるところに真価があります。
つまり、史実と異なる物語を作るのと、手がかりに基づいて史実通りの事象に対して新しい解釈を行うことはまったく違うということなのですね。
この物語でも、薬子の変にいたる流れ(物語的な脚色は別にして、歴史上の事実として語られる部分の流れという意味において)は見事に、現在伝わっている史実に忠実です。
神野帝と平城上皇の確執や、そこに絡む藤原薬子はもちろん、坂上田村麻呂やその跡継ぎ的存在と言われる文室綿麻呂、薬子の兄の藤原仲成や天皇の忠臣である藤原冬嗣らの薬子の変における立場や行動も基本的なところは史実に基づいています。
もっとも、空海は名探偵ではなかったでしょうけれどもw
それなのに、六郎太が看破したいろは歌に潜む謎をきっかけに語られた、「真の薬子の変」は、それだけ史実通りの過程を辿ったにもかかわらず、まったく違う表情を見せてくれました。
正直スゴイと思います。
また、この作品はミステリとしても謎がてんこ盛りです。
件のいろは歌に隠された謎はもちろんのこと、語られる空海の物語にも、雨乞いや、巨大な仏像消失、嵐山消失など、空海や薬子が起こした数々の奇跡に対する謎解きをちりばめながら、いろは歌の謎と密接に結びついた、薬子の変の新解釈と、文字通りのてんこ盛り。
奇跡関連のトリックはちょっとトンデモ系のものもありますが、メインが骨太なのでちょうど良い塩梅ですw
とにかく冒頭に述べた通り、タイトルを見る限りでは、こんなに本格的な内容だとは思えないのが悔しい。
でも、こういうタイトルがあってないのかというと、それも違うのですね。
こういうライトなタイトルが似合う、重苦しくない、読みやすい物語であるのも事実なのです。
たまたまココにたどり着いた未読の皆様、コレはホントに読んでおいて損はないと思いますよ!
そんな感じに微力ながら宣伝したくなる逸品でございました。
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