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九つの殺人メルヘン (鯨統一郎)
書籍情報
著者 : 鯨統一郎
発行元 : 光文社
新書版発行 : 2001.6
文庫版発行 : 2004.6
桜川東子(さくらがわ はるこ)が童話・民話に隠された謎に絡めて難事件を解決するシリーズ第一弾。
収録作品
- 第一話 ヘンゼルとグレーテル
- 第二話 赤ずきん
- 第三話 ブレーメンの音楽隊
- 第四話 シンデレラ
- 第五話 白雪姫
- 第六話 長靴をはいた猫
- 第七話 いばら姫
- 第八話 狼と七匹の子ヤギ
- 第九話 小人の靴屋
こんな人にお薦め
- 大人になってから童話を読み返したことのあるあなた
- アリバイものが好きなあなた
- 安楽椅子探偵ものが好きなあなた
あらすじ
新書版裏表紙(そで)より引用
-
彼女がグラスの日本酒を呷ると、確実なはずのアリバイが崩れ出す。
グリム童話の新解釈になぞらえて、解き明かされる事件の真相とは!?渋谷区にある日本酒バー〈森へ抜ける道〉を舞台に、店の常連の工藤と山内、マスターの“厄年トリオ”と、日本酒好きの女子大生・桜川東子が推理する、九つの難事件。興趣あふれる珠玉の本格推理傑作集!
書評
古典童話とアリバイ崩しをこじつける!
この作品はずいぶん前に読んでいたので、今回再読です。
で、その間に桜川東子シリーズの続編である「浦島太郎の真相」と、かの早乙女静香女史との夢の競演を果たした「すべての美人は名探偵である」を読んでいるのですが、最近読んだ「すべての美人は~」での桜川さんの印象に比べて、ずいぶんクールな感じがしました。
正直なことろ、この作品のみではたいして魅力的なキャラだとは思わなかったのですが、「すべての美人は~」で、その魅力が爆発しましたので、もっと登場してほしいものです。
それはさておき、この物語は日本酒バー「森へ抜ける道」が舞台です。
そこにたむろするマスターと常連ふたり、通称「厄年トリオ」。
「厄年トリオ」のひとりで警察に勤めるぼく――工藤が持ち込んだ未解決事件に三人寄って頭を悩ませているところに、場違いにお嬢様の桜川嬢が日本酒を傾けながらその話を聞いただけで事件の真相にたどり着く、といった趣向です。
バーという設定から鯨先生のデビュー作「邪馬台国はどこですか」を思い起こされますが、今回は歴史論争はありません。
そのかわりにテーマに挙げられるのは「童話」です。
上記「収録作品」にあるような誰でも知ってる有名童話に隠された本当の意味を桜川嬢が説き明かし、それが事件の真相にも繋がっていくというスタイルです。
扱う事件はどれもいわゆるアリバイ崩しものです。
なかなかどうして短編らしいちょっとトリッキーな感じのものが多く、気軽に楽しむには良い感じです。
それも、心理トリックぽいもの、コテコテ物理トリックに、ちょっとあり得ないサイコっぽいトリックなど色々揃っています。
そうはいっても、事件としては小粒であることは否めず、これだけならちょっとした暇つぶし作品なのですが、この作品の肝である、童話新解釈がとっても鯨テイストで、その新解釈が事件にこじつけられていく様は、少なくとも他の作家さんでは見られない独特の印象を与えてくれます。
特に冒頭の「ヘンゼルとグレーテル」などは、難易度は高くないものの、「ヘンゼルとグレーテル」の新解釈と、事件へのつながりも自然で、事件そのものの推理もなかなか細かい状況証拠の積み重ねで真相にたどり着く感じで、楽しめました。
また、「厄年トリオ」が繰り広げる日本酒談義や、芸能界から庶民風俗まで広範囲にわたる昭和ネタも、鯨ファンならずとも「あったあった」と喜べる逸品です。
まあ、気軽に読める作品には違いありませんし、鯨先生のミステリ要素と、新解釈要素とオタク要素がほどよくミックスされた本作は、ある意味鯨先生入門にちょうど良いのかもしれません。
あのラストはどうかなぁ……。
まあ、驚きではあったのですが。
まあ、「浦島太郎の真相」でトリオ復活してくれるからいいんですけどね。
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